やっちまった
華やかな屋敷のダンスホールで多くの貴族たちが談笑している。
今日はこの屋敷の主、ディーワ公爵家の双子の姉妹の誕生日会だ。
姉のエリザベス・フォン・ディーワはふんわりとした桃色の髪とサファイアのような瞳もち、顔立ちも整っている優しい、大人しい性格。
一方、妹のミーシャ・フォン・ディーワは眩しい金髪とルビーのような瞳が美しい、姉とはうってかわって活発な女性だ。
二人は全く性格の異なるが、いつも一緒に過ごす仲睦まじい姉妹であった。
姉妹は楽しそうに話をしていたが、和気あいあいとした雰囲気はある人物によって一瞬にして消え去った。
「エリザベス・フォン・ディーワ、お前との婚約を破棄する!」
大勢の貴族たちが集まっている中を早足でかき分けてくると突然、王子は高らかに宣言した。
あまりの唐突な宣言に貴族たちはもちろん、婚約破棄を言われたエリザベス本人が動揺していた。
「え………ど、どういうことでしょう? 破棄にするにしたって、こんな皆さんの前でなんて………」
「皆の前で示さなければ意味がないだろう! これはケジメであり、オレの本気を示すためでもある」
「け、けじめ? 本気?」
エリザベスは元婚約者の考えが全く分からず、眩暈がして、顔が青白くなる。
王子はそれを気にすることなく、ずかずかと姉妹の目の前に歩いて来て、何をするのかとエリザベスは身構えたが、王子は彼女の隣にいる妹の前に跪いた。
「ミーシャ、これでオレたちの間には障害はなくなった。オレと結婚しよう」
突然のことで硬直していたミーシャは、うっとりとこちらを見つめる王子に鳥肌が立ったことでやっと身体が動いた。
そして、今までの王子の言動がやっと飲み込めて、腹の底からぐつぐつと怒りが湧き出して、爪が食い込むほど拳を握る。
「愛しのミーシャ、もちろん快諾してくれるだろう? そうに決まっている! 新婚旅行は………」
「誰があんたとなんか結婚するかー!!」
その刹那、王子の身体は空中に浮いた。
鍛えあげられたミーシャの拳により、王子の顎に清々しいアッパーカットがはいったのだ。
どしゃりと音をたてて王子の身体が床に落ちた。
王子は、気絶していてぴくぴくと痙攣しており、鼻血がでている。
周りの貴族たちの悲鳴と隣にいるエリザベスの小さい悲鳴が、冷静になってきたミーシャの耳に聞こえた。
「やってしまった………どうしよう」
ミーシャは、ため息をついて顔を上げた。
怒りにまかせた行動で自分に罰が下るかもしれないと少しだけ後悔したが、それ以上に姉への侮辱を許せなかった。
しかし、相手はこの国の王子。
この後を考えると、やはり気が重かった。
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