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第1話 野良メイドの命を救ったらパンツの色を知ることができた

 野良メイドのパンツの色はピンクだった。

 可愛らしいリボンがついている。

 良いものが見られたと思ったら、バサッとスカートで隠される。


「み、見ました?」

「見てない……」

「ぜぇーたい、見ましたよね?」

「見てない、見てないから」


 必死に否定しながら俺は立ち上がる。

 本当はガッツリ見てしまったけど、ここで否定し続けないと困ったことになる。

 俺は普通の人間よりも炎上しやすいのだ。

 余計なトラブルは避けておきたい。


 だが、このトラブルに足を突っ込んだのは俺自身だ。

 だけど、女子が死にそうになるのを、見て見ぬふりなんてできなかった。


「――というか、何しているんだよ!! もう少しで死ぬところだったんだぞ!!」


 怒鳴るのには理由がある。

 何とか自分のやったことを誤魔化すのと、彼女の行動に憤ったからだ。

 年下に見える彼女は、スマホを見ながら車道に飛び出しそうだったのだ。

 信号機もないような場所で踏み出すものだから、俺は必死になって彼女の腰を掴んで歩道に引き込んだのだ。

 ちょうど車も来ていたので、俺が彼女を戻していなかったら轢かれていたかもしれない。

 その引き込む力が強すぎたせいで、彼女が倒れてしまい、その拍子にパンツが御開帳となったのだ。


「それは、すいません……」


 シュン、となって頭を項垂れるのだが、そもそもなんでこんなところに野良のメイドがいるんだろうか?

 この辺りにあったメイド喫茶は潰れてしまったから、メイドなんている訳ないんだけど。

 


「実は、ついつい、動画を撮るのに必死になってしまって……」

「動画?」

「はい。動画を撮るために、この格好になったんです。一応コスプレイヤーです。といっても、ただそうやって名乗っているだけなんですけどね」


 コスプレイヤー、か。

 なるほど……分からん。

 今の所、動画を撮るために、メイドのコスプレをしていたという情報しか与えられていないせいで、むしろ謎が深まった感があるんだけど。


「角度がこう、決まらなくてですね」

「そうじゃなくて、何で動画なんて撮ってるの?」


 動画といっても、色々種類がある。

 友達同士に見せる為の動画か、もしくは、俺のように収益を得るための動画か。


「再生数が欲しいんですよ。これでも私『ShowTube』に動画上げてますから」

「しょ、『ShowTube』……?」


 ――『ShowTube』とは。

 動画の視聴、投稿サイトのことだ。

 他にも様々なサイトはあるが、今一番ホットなのは『ShowTube』だろう。

 動画を投稿することで広告収益を得て、職業となる人々が爆発的に増加している今、誰だろうとインフルエンサーになり得る。


 彼女もその一人、ということか。

 あまりにも増えすぎて、登録者数100万人以上になった人しか認知していない。

 メイドの彼女は、どんな動画を撮っているんだろう。

 同業者として興味持ってきたな。


「あれ?」


 彼女は首を傾げると、俺の全身をくまなく見てくる。

 何だ?

 今日は大学の講義がないから、買い物しに外出しただけだから、いつもよりも服装には気合なんて入っていない。

 だが、そこまで変な格好はしていないつもりだけど。


 ひとしきり俺のことを眺め終えると、彼女は頬を上気させながら問う。


「あれ? もしかして、『タク』さんですか?」




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