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獣を呼ぶ音 (呼ばれた獣 と 風鈴の娘さん)
夏になるとたくさんの風鈴が公園の藤棚に吊るされて、賑やかに涼しげな音色を響かせるのがこの地域の風物詩となっている。八月半ばの処暑を過ぎると、希望者はそれらをもらって持ち帰ることができ、それなりに人気のイベントだ。
その日、そこでもらった風鈴を寝室の窓に吊るして、その夏らしい音に満足して眠った。
――――ちりんちりん。
夜半、風鈴の音が聞こえてふと目が覚めた。
「起きたか」
覚えのない声がしてそちらに目を向けると、白髪の男がこちらを覗き込んでいた。頭についた獣耳のようなものがぴくぴくしているのが気になる。
「……どちらさま」
「お前が呼んだのだろう。風鈴の音は、我らのようなものを呼ぶのだ」
「…………」
これは夢だと判断して、そのまま布団をかぶって寝た。
夢の向こうで、なにやら抗議の声と、再び風鈴の音が聞こえた気がした。
翌朝。男の姿はなく、代わりに真っ白な狐のような獣が枕元に鎮座していた。その耳は昨夜の男の頭についていたものと同じで、やはりぴくぴくしている。可愛い。
「……もしかして、昨日の?」
こちらの問いに、狐はこくりと頷いた。
「……まあ、いいか」
呼んだというなら世話をするべきだろう。この真っ白なふわふわなら飼ってもいい。
頭を撫でてやると、狐はにんまりと目を細めた。




