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けっきょく、自分も好きなので (海の民 と 幼馴染みの山の民)
むすめは山の民だったが、村のみんなのようには山の幸を得ることができなかった。
しょんぼりと落ち込んでいたところへ、いつも一緒の幼馴染の青年が言った。
「山なんかやめて、海へ行けばいい」
山の民として山のもの以外を食べることには抵抗があったが、幼馴染が言うことだからと頷いた。すると幼馴染が嬉しそうに笑ったので、むすめも少し嬉しくなった。
海では、驚くほどたくさんの海の幸を得た。それでも食べるのを躊躇していると、幼馴染に口に放り込まれてその美味しさの虜になり、むすめは海の幸を食べるようになった。
そうしてむすめの体がすっかり海の民のようになったころ、幼馴染が言った。
「一緒に海の底で暮らそう」
そのとき、むすめはようやく理解した。今まで山の幸を得られなかったのは、海の民である幼馴染が海の力を使って邪魔をしていたのだと。
……むすめを海に適応する体にして、迎え入れるために。
「きれいな場所があるんだ。ずっと君を連れて行きたいと思っていた」
手を差し出して海の底へ誘う幼馴染があまりに嬉しそうで、それならいいかとむすめは思い、苦笑してその手をとった。
虎視眈々と狙っていた、海の民の彼。




