愛情表現 (意地悪な魔術師 と 行き倒れの娘さん)
行き倒れていたところを拾われて数ヶ月。
魔術の才能があるらしいと分かり、拾ってくれた魔術師から魔術指導を受けている。
「阿呆。これくらい一度で覚えろ」
「ぐっ、…………すみません」
心底呆れたといった表情で吐かれた言葉に、こちらは魔術の素人でそんなこと無理に決まっているだろうと文句を叫びたくなるが、なんとか堪える。拾ってくれた上に魔術まで教えてくれるのは、本当にありがたいことだから。
だが、それにしてもこの魔術師は、ちょっと意地が悪すぎではないかとも思う。嫌われているのか。
そんな気持ちが顔に出てしまったのか、魔術師はにやりと口をゆがめた。
「なんだ、まさか俺がお前を嫌っているとでも思ったか? そんなわけないだろうが。この俺が、わざわざ手をかけてやっているんだ。他の誰にもこんな面倒なことをしようとは思わない。…………お前だからだ」
気がつけば、魔術師の顔が息も触れるほど近くまで迫っていた。
「えっ」
急にそんなことを言われて熱のこもった目で見つめられても、どうすればいいのか分からない。
「ず、ずるい……!」
「なにがだ?」
魔術師が浮かべる笑みは、やはり意地の悪そうなものだった。なのに、頬に添えられた手は優しい。
そうするともう、ぎゅっと目を閉じるしかなかった。
魔術の授業ではとても意地悪な感じなのに、急に甘い空気を出してくる魔術師。翻弄される娘さん。