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第3話【未知との邂逅】

事態から半刻ばかり過ぎた頃、騒然とした空気は薄まりつつ事態は収束のほうへと歩んでいた。

とはいうもののギルド支部1階は半壊状態。多数の負傷者を出し、ギルド人員総出で救護へ奔走。

物もあちこちに縦横無尽に無造作に転がった散乱ぶりで通常業務に復旧するまで数日間はギルド運営を中止にせざるを得ない状態だった。

その2階の一角に位置する厳かな雰囲気をまとったギルド長室にて、急遽今後の対策も含めた緊急会議が執り行われることとなった。


「……俺が離れている間に斯様な事が起きていたとは。その場にいなくてすまなかったな」

「いえ、たとえ支部長さんが居られたとしてもはたして無事に済んだかどうか……。むしろこのような事態を招いた責任の一端は鑑定士の私にあるかと。大変申し訳ございませんでした」


深々と頭を垂れたアミュリタの先には長机に座った大柄長身の男―――シルティルナ支部長ドライロ・アラヴァンが思案気な顔で腕組みをしていた。

現A級の冒険者も兼任している腕利きの実力者であり、彼の右頬には眼元から顎下にかけて縦に大きく裂かれたギザギザの傷、対照的に左頬はこれでもかというぐらい赤く腫れあがった手跡がついていた。


「あー、そういうのは後にしてくれ。とにかく今は現状の把握が先だろう、でなければ何も決められん。それでアミュリタ、お前から見て何も異常はなかったんだよな?」


「封印が解ける前とでは結果が違うのではと思い、念のためと鑑定眼を使って再鑑定していたのですが……急激に本に変調が起こるまでは目立った変化は見えませんでした」


「その日記の内容が跡形もなく消えてしまったことといい謎に満ちているな。リザルラはどのように考えている? ……俺はあれは日記に見せかけた魔導書だったのではないかと思うのだがな」


魔導書。それは一度読めば魔法を習得できる宝物書のことだ。高名な魔術師が作製したものが大半を占めており、希少価値も高く市場でそうそう出回っている代物ではない。

魔術師はもちろん収集家やコレクターも垂涎するほどで、これ一冊で人生を遊んで暮らすだけのお金が動くこともあるという。


「そもそも魔導書に書かれた魔法は一度覚えようが失われない。使い切りはレアケースすぎて判断できないのが正直な所だが・・・・・・。まあ今の私に言えることは、仮に魔導書だとしたらこれを作ったやつは阿呆か超がつく程の阿呆か死んでも治らない阿呆ってことだけかな」


「阿呆を連呼するとは随分な言い草だが……それはどういう意味だ?」


「そもそもこれは露見しないよう偽装してまで封印されていたわけだ。しかし一度読み始めたら最後、強制的な取得が待ち構えている。封印された魔法というのは十中八九ヤバいか強力かの二択だからね。見境なしに相手を選んで効果さえわからんヤバそうな魔法を押し付けているのがイカれてるってことさ」


リザルラは肩を竦めながらお手上げのポーズをした。

まだ見ぬ同業者に呆れた溜息を吐いて、まるで救えないと言わんばかりに。


「でも仮にスキルだとしても、書かれているのは本じゃなく巻物ですよね? 魔法かスキルなのは間違いないのに一体どういうことなんでしょうか?」


アミュリタは手に持っていた一枚の鑑定書に目を落とした。

意識不明に陥ったオクリースに異常がないか調べるため鑑定を行い、以前行った鑑定結果と照らし合わせたところ新たに書き足されている項目があったのだ。


ただ二文字―――【ブラ】と。


「ただこれが魔法にしろスキルにしろ、ブラジャーってことだけは絶対にないですけどねっ!!」


「ああ、それは私も必ず保証しよう。むしろ女物の下着の名前が付いた魔法が本当に存在するならば後学のために是非とも拝見したいところだ」


そして二人の視線は冷や汗を流しまくっているドライロへ流れる。

そこには氷より更に温度を下げた冷ややかな感情しか込められておらず、二人から発せられる鋭利すぎる非難の視線に耐えられないドライロは僅かに目を逸らした。


遡ること数刻前、鑑定結果を報告で聞いたドライロはアミュリタからその言葉を耳にした。

意識不明になり目を覚まさないオクリースと関係が深いアミュリタは心身不安定であり激しく心を掻き乱されていたままだった。


「"ブラ"というのは……ブラジャーの事か?」


そこで気の抜けたような見当違いの言葉が飛んできたわけである。

アミュリタの逆鱗に触れてしまったドライロは、烈火の如き平手打ちで脳天から真っ逆さまに叩きつける勢いで張っ倒された。

左頬に見事に残っている痕跡は彼の罪深さを白日のもとに曝け出すよう堂々と主張していた。


「いやその、本当に悪かったとは思ってるんだ……。さすがに直球すぎた。だがこれだけは是非とも言い訳させてほしい! "ブラ"と聞いて"ブラジャー"だと思い浮かばない男が何処にいようというのか!!」


「…………………とりあえず目覚めるのを信じて待つしかないな。我々が彼女に対してできるのはそれぐらいだろう」

「………はい。オクリースちゃんさん………………どうして、どうしてこんな事に………っ!」



ソファーに毛布をかけて寝かされているオクリースに縋りつくように今にも泣きそうなアミュリタ。

リザルラは肩を並べ、そのか細い背中を優しくさすった。とてもじゃないが友人のそんな姿は見ていられない。


その背後でなんだかよく分からない自己弁解を捲くしたてている男はギルド長室の外にでも放って締め出せばいいだろう。それが人類が幸せになるのに必要不可欠なことかもしれない。


そんな事を思い連ねながら、リザルラはアミュリタが手に持っていた鑑定書をふと覗き込む。ただそこには疑問が渦巻いていた。

名前、年齢、住所、家族構成、どの項目も空白のままだったのである―――新たに書かれた"ブラ"以外全てが。


古いものと比較する場合重複したものでも普通はそのまま書かれる。既に判明しているものは書かないなんてことは絶対ない。それがまるごと書かれていないのはどういう事か?

泣いているところ悪かったがその事を問い質そうとしたとき、扉が勢いよく開かれ職員が慌てた様子で飛び込んできた。


「ドライロ支部長、申し訳ありません!! ダンジョンに数日間潜っていた複数のパーティー達が大怪我をして帰ってきたのです! 中にはすぐに高度な処置が必要な重傷者もおりまして、先程の騒動で人員が割かれていることもあり数も質も足りません! 一刻も早い増員の手配をお願いします!!」


ドライロの目がキラリと光った……気がした。


「よっしゃあ―――っ!!!!! すぐに手配するとしよう、俺に任せておけ!! アミュリタは先に現場に向かい怪我人の手当を行っててくれ!! 俺も応援要請が終わり次第、至急向かうとしよう!!」


まさに渡りに船とはこの事か。この肩身の狭い嫌な空気を打開してくれた職員の来訪にドライロは神に激しく感謝した。


涙を拭ったアミュリタは、この上なく意気揚々となった支部長の浮かれた様子を見て心底呆れつつも怪我人の救護のためと急いで職員と共に1階へ降りていった。

ドライロは連絡手段が置いてある別室へと行ってしまい、ギルド長室には未だ目を覚まさないオクリースとリザルラだけが取り残されていた。


「さて、どうしたものかな。私はアミュリタのように回復魔法が得意ではないが魔術師として微力だが力になれることもあるかもしれん。ここにただ居ても仕方ない。どれ、私も降りるとしようか」


扉に向かって一歩踏み出した。それと同時に全身に強烈に襲い掛かってくる違和感の嵐。


「―――――――――?」


ふと見ると自らの肢体が穴だらけになっていた。

無事だった頭と左手以外の主な箇所が向こう側が見通せるくらい綺麗にくり貫かれていた。

そして自分が何者かによって刺されているのだと自覚したのは、何かが一斉に引き抜かれた後だった。


「がはっ! バ、バカな……敵襲だと!?」


地面を転がるようにして身体を壁際へ持っていき、口元から血が吐血させながら呼吸を荒げた。

身体の貫かれた穴からは絶え間なく大量に出血が続いており、命が危険域に突入するのもそう遠くないのは見てとれた。


不意を突かれたことはリザルラにとって異常事態だ。

常日頃から魔力探知と魔物探知を張り巡らせている彼女からすれば、その網を掻い潜って接近できる輩はそうそういないものだと経験則から自負していた。

加えて攻撃予測のスキルも持っていたため、例えその存在を消す相手だろうと自分を害する凶刃の存在は見落とすはずがなかった。

だがその牙城は今この時をもって音を立てて崩壊した。


襲い掛かってきた相手はその難関を乗り越えてきた相手だ。マトモな相手じゃないのは明白。

現にギルド室長を見渡しても姿形も影すらもなかった。

リザルラは覚悟したように壁際に背中を預け、呪文を唱えた。


「"テミア・エル・マディアス"!!」


現れたのは前面に展開された幾層にも重なった鏡面の障壁。

おそらく攻撃手段は針状のもののような何か。ならば動きは直線的に限定される筈だ。

防いでいる間に何とかしなければ―――


「詠唱魔法を使うとは、いつ以来ぶりか……」


詠唱を必要とせず即座に魔法を放てるリザルラからすれば詠唱魔法を使うことに然程(さほど)意味はない。

ただ今回の場合は声を大声で張り上げなければならなかった。敵がいるのだと、誰でもいい、一人でも多く伝わるようにとそう願って。


「―――危ないっ!!」

「!?」


その祈りが届いたのか。声に押されてリザルラは身体ごと伏せるようにして横へ一気に押し出されるのを感じていた。

その瞬間に察した。障壁が張っていない横側から敵の攻撃が及んでいたことを。

不可視の攻撃は近くに置いてあった本棚を軽々と貫き、抜いた衝撃で倒壊。

巻き込むようにして机へと倒れ、机に置いてあったランプから火はこぼれ木造の床からたちまち激しい炎が巻き上がり燃え広がっていく。


「ぶ、無事ですか……?」


そして解ったことがもう一つ。

危険を顧みず身を挺して飛び込んできてくれた、先程まで(とこ)()せていた少女(オクリース)が私の隣に居てくれるという事を。

それはこの閉塞した状況に一筋の光明をもたらしてくれるような、そんなささやかな灯火であった。

この作品を読んでくださりありがとうございます!

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