或る化け物の目覚め
ーーー起きて。ほら早く。起きてってば。
自分の身体が揺すられている感覚。相変わらず彼女は起こし方が雑だ。いくら幼馴染だからと言ってももっと優しく揺すってほしい。
ーーーもう起きる時間だよ、ファイ。おーきーて。
もう少しだけ、眠らせて欲しい。まだ僕は寝ていたいんだ。
ーーーもう、そんなに起きたく無いならっーーー
瞬間、僕の体に、大きな振動が走った。
* * * * * * * *
「っ!?」
魚が陸で飛びはねる様に、少年は反射的に起き上がった。そしてすぐに周囲を見回す。積み上げられた木箱、揺れる地面、木の匂い、車輪の音。帆馬車の中で、少年は横になっていた様だ。馬車の揺れで目覚めたのかと少年は納得した。ふと自身の身体を見ると、薄い毛布がかけられていた。
「あ、起きましたか?」
なぜ毛布が自分にかけられているのかと思っていると、声が聞こえた。少年は上半身を声のした方へ向けると、銀の髪の少女がこちらに近づいて、少年の手を取った。
「具合はどうですか?」
「・・・問題ない、です」
「どこか痛いところなどはありませんか?」
「・・・大丈夫、です」
そう言って少年は身体を少し動かした。
「うん、本当に問題ないみたいですね。よかったです」
少女ーーーアリアはそう笑いながら言った。
「森の中であなたを踏んでしまったときにはびっくりしましたよ。初めは死んじゃってるんじゃ無いかって思いました」
その言葉を聞いた時、少年は首を傾げながらアリアに聞いた。
「・・・踏んだ?」
「あああそうだ脚!脚は問題ないですか?私あなたの脚踏んでしまったんですよ!ごめんなさい!」
そう申し訳なさそうにいうアリアを傍目に少年は脚を軽く動かしてみる。
「・・・うん、問題はないみたい、です。だから頭を上げて、ください」
「なんとも無いんですか?・・・はあ、良かったー」
そう安心しているアリアに、少年は聞いた。
「・・・ところで、僕はどうしてここにいる、んですか?」
「ああ、説明していませんでしたね。あなたはこの辺りの森の中で倒れてたんですよ。それを私たちが見つけて、あなたを王都まで送り届けようと私たちの馬車に乗せていたんです」
「・・・僕は森の中で倒れてた、んですか?」
「はい、逆に聞きたいんですが、なぜあんな森の中で倒れてたんですか?」
「・・・」
思い出そうとしてるのか、頭を上に向けたまま目を瞑り何も喋らなくなってしまった。そこに声がかけられる。
「アリア様ー、件の少年はおきましたかー?」
「はい、体調も問題ないみたいです」
「おー、それはよかったですねー。ではー、一度この辺で馬車を止めて互いの紹介でもしましょうかー」
そう言って御者をしていたイリスが馬車を止め、外に出た。
「私たちも一度外に行きましょうか」
アリアは少年にそう言った。しかし少年はまだ考え込んだままだ。
「あの、今はとりあえず外に、」
----グウウウウウウウウウウ
「!?」
突然聞こえた異音にアリアは何事かと身構える。
「・・・ああ、思い出し、ました」
突然少年はそう言った。そして自身のお腹を手で触りながら、
「・・・僕、お腹が空きすぎて、飢えで森の中で意識を失ったん、でした。・・・ああ、思い出したらお腹が空いて、きました。何か食べ物はない、ですか?」
そう、言ったのだった。