移動
ここは港に入る道、の近くにある細い裏道。
そこには、一台の黒い車が止まっていた。
雨風がフロントガラスを叩きつける。
運転席にいるのは黒いコートを着て、暗い色の髪をした無表情な青年。
助手席にいるのは打って変わって、ブロンドの長髪を後ろで結えている綺麗な顔をした青年。
何を話すでも無く、視線も交わらない。対照的な2人。
2人共、共通の人物の帰りを待っていた。
すると、勢いよく後部座席のドアが開く。
「お待たせしました!」
「だー!びしょ濡れだー!!」
「お帰り。レイ、ジャック。ーーーで、“ロゼ”は?」
レイ、と呼ばれた青年が頷く。
「はい。無事に」
抱えるようにして持っている茶色い布に包まれたものをポンと叩く。そして躊躇いながら言った。
「ーーーただ、人、なんです。けど」
「な! マジでビックリしたー!」
対照的なのはこの2人も、だった。
「あー、まぁアイツの事だし…面白そうとかで言わなかったんじゃないかな。うん。多分」
苦笑しながら長髪の青年は答えた。
「出すぞ」
一言発したと同時に、
エンジンがかかり、車は急発進をした。
「来た?」
「あぁ」
短い会話の後、サイドミラーを見るとライトの光が見えた。
「えぇー!結構撒いてきたんだけど!」
ジャックが後ろを見ながら顔を膨らませる。
「しっかり掴まってろよ」
暗い髪の隙間から見えた瞳が鋭くなる。
そして、華麗なるドリフトからの再度の急発進。
数台はこれであっという間に撒いた。
唯、最後まで残った一台はどんなにしてもついて来る。
しょうがない。
長髪の青年が、車のグローブボックスから取り出したのは拳銃だった。
「ルカ」
「オズ、スピード落とさないでいいから」
すると、助手席の窓から半身を乗り出し…
タイヤ目掛けて一発、撃った。
見る見るうちに、最後の追手一台はスピードが落ちた。
火薬臭い拳銃を置き、雨に濡れた髪をかきあげる。
「確かに、これは酷い雨だ」
ようやく落ち着いた運転が出来る、ルカはひと息ついた。