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弓使いのアン、そしてピンチ

馬車に乗ってからは色々話した。

止まる町で人が降り、新たに人が来て、新しいことを話す。

それが楽しくて、楽しくて、アンは時間をしばらく忘れていた。



「魔物だ!!魔物が現れたぞ!!」

夜も深まり、乗客達がぐっすりと寝ている時間に、運転手の大声が響いた。

アンを含めた乗客十人は飛ぶように起きる。冒険者などの戦える者は武器を取り、戦えない物はその場で身を竦めた。


「敵はラビットユニコーン!数はおそらく二体だろう!戦える者は応戦してくれ!」

「了解だじじい!」


乗客の一人である《ナナグロ》は剣を片手に馬車を飛び出す。

「人の睡眠を邪魔しやがって!殺すぞ!」

ナナグロは剣を振った、だが、ラビットユニコーンは素早い魔物だ、ナナグロの剣は空を斬る、が、それも織り込み済みなのだろう。ナナグロは、二回、三回と追いかけ、四回目にしてついにラビットユニコーンの片耳を斬る。

ラビットユニコーンは悲鳴を上げ青い血を垂らしながら倒れる。しかし、まだ息はあるようだ、その隙に止めを刺そうと剣を振ろうとしたが、もう一体のラビットユニコーンがナナグロの横腹に角を刺した。


今度はナナグロが攻撃を受ける番だ、角を刺したラビットユニコーンは、その勢いを殺さずに回し蹴りを行う。一蹴り、二蹴り、三、四と、回数が増えるたびにその攻撃速度は上がっていく。

ナナグロも出来るだけ攻撃を受けまいと腕で防御をするが、ラビットユニコーンの猛撃はすさまじく、ラビットユニコーンは空中で思いっきり蹴飛ばし、ナナグロの体ごと吹き飛ばした。


空中で「きゅいきゅい!(やってやったぜ!)」と思ったラビットユニコーンは、次の標的を目指し馬車の方向を向いた。


ヒュン


一つの矢が飛んでくるのが見えた。「きゅい!(しまった!)」なんて思っても、体は空中にあり、慣性も消えた。


トンッ


戦闘とは思えない軽快な音が聞こえたと思うと、ラビットユニコーンの視界は暗くなる。

矢を撃った人は、アンだ。

アンは馬車の中で弓を構え、じっ...とチャンスを伺っていた。


「やっと目が慣れてきた。暗闇大っ嫌い」

「やるねぇ君、私も混ぜてよ」


アンの後ろから女の人の声が聞こえた、声の主は《チャイン》と言う女の人。

彼女も馬車から飛び降り、片耳が取れたラビットユニコーンの元に行く。

「残飯処理は趣味じゃないんだけどねー...ん?」

ラビットユニコーンは立ち上がり、最後の力を振り絞り立ち上がる。


「きゅぴぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!」


ラビットユニコーンの甲高い声が夜闇に響き、鳴いたラビットユニコーンはその場で倒た。

すると、遠くの方からも「キュピィ!」と聞こえた。それも一つだけじゃない、至る所で鳴いた。


「あー...これは、やばいかもね。運転手の方!いますぐ逃げよう!」

「わ、分かった!皆の者、しっかり捕まっとれ!」


馬車はすぐに動いた。

チャインはナナグロの手当てをし、アンは未だに弓を引き警戒を続ける。

後ろから四体、ラビットユニコーンが迫ってきた。

アンは弓を引くが、馬は逃げることを最優先にしているため、車体は揺れに揺れ、上手く狙いが定まらない。


ヒュン!ヒュン!トンッ。


なんとか一体だけ当てるが、時は既に遅かった。

さらに増援のラビットユニコーンが馬車に突撃する。

車体が揺れる。

「こ、こうなったらこれを使うか!これ、高いんだからね!」

チャインは鞄の中からとある瓶を取り出し、ラビットユニコーンの群れに投げた。

「あれは魔物呼び寄せる液らしい!あれに濡れた所は魔物が寄るらしいけど...」

だが、効果は無かった。再び馬車に突撃を喰らう。

「なんで!?まさか詐欺!?」

「どうでもいいですよチャインさん!他に手はありませんか!」

「もう持ちませんぞ!」

アンは叫びながら、弓を引く。弓の制度よりも連射を意識しだすが、当てても当てても数は減らない。

馬車も速度を上げようとするが、馬も疲れる生物だ、徐々に速度は減速し、一度離したラビットユニコーンにも追いつかれ、ついには馬車ごと倒れた。


「わ、私の馬車が!ど、どうしましょう!」

「どうするもこうするも、足掻くしかないでしょ!アンちゃんは援護を!私は突っ込む!戦えない人はもうしらない!頑張って生きて!」

「な、なんと勝手な!」

「チャインさん待ってください!死んじゃいますよ!」

「どっちにしろ死ぬから!行くよ!」


倒れた馬車に、ぞろぞろと近づくラビットユニコーン、ざっと数えて四十くらいはいそうだ。

夜闇に輝く赤い目は魔物の証、その目から見る人間はどんな姿だろうか。


チャインは一つ息を吐き、そして、吸う。ラビットユニコーンの群れに飛び込んだチャインは一つの魔法を唱え、剣に宿す。


「『轟々と轟け、雷よ轟け、轟く先に何があるか、雷神よ、我に教えよ!《サンダーソード》』!」


チャインの剣に雷が宿り、宿った剣をそのまま横に一線振った。

雷の剣は振れた物の動きを鈍らせる、一斉に避けたラビットユニコーンだが、一体当たってしまう。そいつに、縦一線。ラビットユニコーンを真っ二つにしてみせた。


だが、一体のラビットユニコーンを倒したとして、残りは三十九体。

そもそも、ラビットユニコーンがどんな魔物か、このタイミングで教えておこう。

見た目は兎に角が生えた姿だ。身長がかなり低く、かなりすばしっこいため攻撃を当てることが難しい。亜種で甲羅がついてるやつもいるらしいが、今は省く。

次に討伐ランクだが、こいつは『一体』で《熊》だ。

《熊》というと、《青》から《赤》の冒険者が苦戦して倒すレベルだ。

そいつがいま『三十九体』いる、もしもこれが討伐依頼として張り出されたら、討伐ランクは《蛇》として出され、近くにいる冒険者達は強制的に討伐参加しなければならないくらいの大ごとだろう。


話を戻そう、言っちゃえば勝ち目なんて無いに等しい。

チャインは剣を振りかぶった隙に蹴りを入れられる。

後ろにいるアンも同様だ、矢を放っても避けられ、間合いを詰められて顔面を蹴られる。


(これが冒険かぁ...、たくさんの人と触れ合う、なんて目標よりも、まずは生きなきゃなのに)


地面に倒れたアンは、次々に蹴られる人を見ながら思う。


(無力だなぁ、人に触れあっていたらこんなことにはならなかったのかな)


(悔しいなぁ、昼間あんなに仲良く話せたのに、もうみんな死にかけ)


実家でパンを焼いてるチャインさん、来月に誕生日があるナナグロさん、永年この仕事をしている運転手さん、無口だけど儲け話になると喋るゲイルさん。


(みんな、みんな、死んじゃうのかな)

「そうだな、今の状態はまさに必死状態、戦況を覆すのに質も量もクソだな」


「.........え?」

頭上から、知らない声が聞こえた。

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