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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

宝くじ当選したらデスゲーム巻き込まれたから、課金して生き延びる


 部屋の中には、コチコチと壁掛け時計の針の音だけが響いていた。その時計の短針は、天頂付近を指し示している。

 地方都市の県庁所在地にある、低所得者向けの安アパート。

 その六畳一間の自室の中に、藤村圭吾は居た。


 部屋の隅に設置された黒いシンプルなデザインのパソコンデスク。その上に置かれたデスクトップPCのモニターには、先程からずっと変わらない画面が表示されている。

 あるメガバンクのサイトの画面だった。


 その画面には、数桁の数字が表示されている。

 そして、圭吾の手元にある小さな紙切れにも、その数桁の数字が刻印されていた。


「……7……12……28……」


 モニターから放たれるブルーライトの光を顔に浴びながら、画面に表示されている数字と、手元にある紙片の数字を見比べる。


 何度も何度も、繰り返すように画面と手元に視線を交互に動かす。

 その行動を何回、そして何分間繰り返しただろうか。


 圭吾は、ある時にその動きを辞め、今度はその紙片を片手持ったまま、きつく目を閉じた。

 目を閉じた圭吾が再び目を開けた時、モニター端のデジタル表示の時計の時刻は、0を三つ並べて居た。


 圭吾はそのことに気がつくこともなく、右手に持ったマウスを操作して、一度モニターに映る画面、そのインターネットブラウザの履歴を開き、キャッシュをクリアする。

 ブラウザの更新ボタンを押す。


 一瞬、読み込みに時間がかかり、そしてモニターには、再び同様の画面が表示された。


 圭吾はその再度表示された画面にある数字と、手元の紙片に刻まれた数字が同じことを確認して……


「やった……!」


 小声で喝采を上げ、激しく静かに喜びを顕にした。

 喜びに震える圭吾の前にあるデスクトップPC、その画面には、宝くじの当選番号が表示されていた。


§


「こちらがお預かりしていた通帳になります」

「お……おお……!」


 三日後、圭吾は銀行の応接室にいた。

 圭吾の住む地方都市の支店ではなく、東京にある本店の応接室であった。


 圭吾はしがない中小企業に勤めるサラリーマンである。

 仕事は庶務。そして階級は平社員である。

 今年で三十にもなるのに、未だに出世と縁がない圭吾は、いわゆる“うだつの上がらない“と称される社員でしかない。

 そんな圭吾にとり、銀行とは精々給与を下ろす場所にしか過ぎず、会社のものと比べるのも烏滸がましいほどに高級な調度品で飾られた、大銀行の応接室というのは、これ迄の人生で全く縁の無いものだった。


 それゆえ、深く沈みこむ高級ソファーの感触に、圭吾の尻は落ち着かず、自分が場違いな場所にいるという、居心地の悪さを感じていた。

 ソワソワと落ち着かないといった様子の圭吾。

 しかし、それも、銀行の女子行員が圭吾の通帳を持ってくる迄だった。


 恭しく差し出されたトレーの上に置かれた通帳を手に取ると、圭吾は居ても立ってもいられない様子で通帳の頁を捲る。

 そして取引記録が印字された頁のその最後、最後の取引が記録されている部分に、それはあった。


『700,000,000』という数字。


 それは今、圭吾がいる銀行から振り込まれており、通帳の残高の欄にも、その数字が加算されたものが記録されている。


「いち……じゅう……ひゃく……せん……まん……」


 桁をしたから数え、正しく振り込まれているか確認する。

 その声は桁が大きくなる毎に次第に震え、そして「なな……おく……」と圭吾が声に出したときには、もはや掠れるほどに震えていた。


 圭吾は三度数字を確かめ、確かに振り込まれていることを確認すると、今度は口角が上がるのを自覚した。


「おめでとうございます、藤村様!」

「おめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます……」


 タイミングを見て、通帳を持ってきた女子行員と、高そうなスーツを着た年配の男性行員が祝福の言葉をかけてくれる。

 その言葉を受け、はにかみながら圭吾も言葉を返した。


「それで……どうでしょう。先ほどお渡しした冊子にも書いてあるのですが、藤村様は急に、大金を手にお入れなさった。こういった場合、急に生活のレベルを上げ、身を崩されるお客様も大変多いのです」

「あー……よくネットとかで聞きますねえ」

「そうならないためにも、是非とも当行に定期預金としてお預けになられてはいかがでしょうか?」

「んー……そうですねぇ……」


 年配の男性行員の口から告げられた言葉は、圭吾にも納得のいく話だった。

 ただ、現在の金利は政府の推し進める低金利政策によって、定期預金にしたとしても雀の涙だ。それでも億単位の金額を預ければ、それなりの金額にはなるが、圭吾としては、それなら株に変えた方が良いとの考えがあった。


「最近は金利もねぇ……じゃあ、一千万だけお願いします」

「畏まりました、君」

「はい、では通帳の方、お預かりします」


 暫くお待ちください、そう言って女子行員が圭吾の書いた書類をと共に席を立つ。

 一千万という、つい先日の圭吾からすれば全財産をも上回る金額を定期に移したにも関わらず、戻ってきた通帳には、先頭の数字こそ“6“へと変わっていたが、未だに九桁の数字が変わらずに刻印されていた。


§


 そしてその後、圭吾は会社を辞めた。

 それはもう、素早い動きだった。

 銀行に貰った冊子には、「今までと同じ生活を続けましょう」なんて書かれていたが、圭吾にはクソ食らえだと思った。


 圭吾の勤める会社は、控えめに言ってブラックだった。

 このご時世にサービス残業は当たり前。パワハラ上等。そして悲しいことに、圭吾はその会社に勤め続けなければならないほど、仕事が出来なかった。


 圭吾の趣味はゲームである。

 その趣味のゲームの腕は、そこそこあると自負していたが、反面、仕事は全く出来なかった。

 それゆえ、趣味のゲームすら出来ないほどにブラックな会社から、抜け出すことが出来ないでいたのだ。

 生きるために仕事をしているのか、仕事をするために生きているのかと自問することもある苦しい日々だったが、それももう終わりだ。


 圭吾が朝一で叩き付けた辞職届けを見た上司は、「巫山戯るな!」「お前なんかどこに行っても通じない」「どうしても辞めるなら替わりの人間を連れてこい」「今謝るなら許してやる」「損害賠償するぞ」といった、ネットで聞いたことのあるような罵詈雑言の嵐を、顔を真っ赤にさせて口にした。

 だがそれも、圭吾が、


「ガタガタ言うなら、出るとこ出てもいいんだぞ。こっちはそっちの違法残業やパワハラの証拠は全部取ってるんだ」


 と言った瞬間ピタリ、と止んだ。


 圭吾としては、それらの証拠を持って訴えても良かったが、宝くじの当選金である億を越える大金がある以上、精々数百万のために、これ以上このクソブラック会社と関わり合いたくは無かった。

 ゆえに、即日辞めさせてくれるなら、訴えないでやるという条件をつけると、圭吾の辞職届けはあっさりと受理された。


 晴れて無職になった圭吾は、それからと言うものの実に快適な日々を過ごしていた。

 もう、圭吾には早朝出勤も、朝の朝礼も、残業も飲み会も関係が無いのだ。

 ストレスから解き放たれ、やりたかったゲームやアニメ、漫画と言ったものを満喫する日々だった。そして、


──ピンポーン


「宅配便でーす!」

「はい、今出まーす」


 圭吾の住む家──即金で買った新築のマンションの一室──に来客を知らせる電子ベルの音が鳴った。

 玄関に備え付けのカメラで、確かに宅配便だと確認した圭吾は玄関のドアを開けた。

 そこに居たのは、まさしくカメラに写っていた宅配便のお兄さんであり、そして大きな荷物であった。


「えー、藤村圭吾様ですね?」

「はい、その通りです」

「VR社様から、荷物が届いております」

「はい、はい」


 複数人でやってきた宅配便のお兄さんにサインをして荷物を受け取り、その荷物を奥へと運んで貰う。

 そして宅配便のお兄さんたちが帰ると、圭吾は喜び勇んでその荷物の梱包をほどいた。


「おお……」


 果たして、そこに現れたのは、大きな機械であった。

 メタリックな外見の側面には、意匠化された『VR』の文字が踊っており、上部には中が覗ける窓が設けられている。

 それは、中に人が寝られるようになっていて、中には長時間使用していても、床擦れが起きないという医療用の新素材がクッションとなっていた。

 一見、酸素カプセルのようにも見えるその機械、その正体は、ゲーム器であった。


「これがVR社の最新ハイエンドモデルか……」


 そう、圭吾はブラック企業を辞めたあと、常々やりたいと思っていたVRゲームを購入することにしたのだった。


 VRというゲーム自体は、かなり以前からあったものの、それは立体視させた視覚による疑似的なリアルな体験を示していた。

 しかし、圭吾が購入したゲーム器の製造販売元のVR社。

 そこが発表したのは、それまでのVRとは一線を画するものだった。


 電気パルスにより、脳内に擬似的に世界を読み込ませるという、医療用技術から端を発したヴァーチャル・ダイブ技術。

 元は半身不随になった患者のケアのために産み出された技術を応用して作られた『全感覚投影型ダイブ式VR』──正式な学術的な技術の名前を圭吾は覚えていなかった──が、世の中に産み落とされたのだ。

 

 これは当初、様々な人間から熱狂的とも言える期待を受け──そしてその価格に絶望された。

 メーカー希望小売り価格、日本円換算で『¥18,000,000─』


 この価格をポンと出せるのは、それこそ大金持ち位であり、あとは一部医療機関がケアの一種として導入した他は、ゲームセンター等で提供されるだけだった。

 プレイ一時間が平均して5,000円という高額にも関わらず、あっという間に全世界で大人気になり、そして量産効果で次第に価格も下がり始めた。


 とはいえ、量産効果とはいえ、高度な技術が使われた機械がそこまで安くなるわけが無く、あくまでも下落幅は限定的だった。(それでも約四割下落した)

 本当の意味での一般への普及は、性能を抑えた廉価版の登場を待たなければならなかった。


 その廉価版は、圭吾が社会人になって直ぐ発売されたが、その時には圭吾はブラック企業の魔の手にかかっており、ただ終電と始発に乗って会社と家を行き帰りするのみの日々を送っており、ゲームなどやる隙は一ミリ足りとも無かった。


 いつか辞めてやる! そう決意して早くも八年が経とうとしていた。


 だが、宝くじ様々である。

 とうとう、八年越しの夢が叶った。

 それも最高の形で。


 圭吾が購入したのは、廉価版ではなく、逆に性能を高めた最高級モデルの品──ハイエンドダイブ機器だった。

 廉価版が現在で、80万程で購入できるのに対して、ハイエンドモデルは、なんと5,000万円する。

 それを、圭吾は自分へのご褒美として購入していた。

 値段分の違いも当然あり、性能が高まるほどに意識の“ズレ“や通信のラグ、そして“ダイブ酔い“と呼ばれるVR適応障害は発生しにくくなる。

 ハイエンドモデルは、医療用機器と遜色ないか、或いはそれ以上の品質を持つ故にであった。


「よーし、じゃあセットアップも終わったし……やるか!」


 ガシャッ、プシューッと空気圧式の扉が開閉し、ダイブ機器の中に入った圭吾がゲームを始める準備が整う。


「えっと……よし、こうだな」


 機器の中はスペースがあり、その中である程度動くことができる。中に設置されたパネルを操作して、ゲームを起動した。


「ん? 『このゲームには課金の要素があります。予めクレジットカードの番号を登録しておくと、便利です』か……」


 圭吾がやろうとしているのは、以前から注目が集まっていた超大作のVRMMOのタイトルだった。

 昔からやりたいと思っていたゲームは、既に最盛期を迎えたり、過ぎたものが多い。ならば、と新規でも横並びで始められる新作を選んだのだ。

 そのタイトルはβ版のレビューなども大変評判がよく、圭吾は是非ともそのゲームをやりたくて仕方がなかった。


 事前に、課金要素もあると明示されていたな。ネットで見た記事を圭吾は思い出した。

 圭吾は課金が嫌いではない。

 圭吾がブラック会社にも勤めていたとき、唯一プレイ可能だったのが、通勤時間にプレイ可能なスマホゲーだった。

 だがプレイ時間が確保できない圭吾は、仕方なく課金して、そして数少ない娯楽の時間を快適にしていたという過去があった。


 五年ほど前に発明された、情報技術の革新により、現在では通信の秘匿性能は格段に向上していた。ゆえに、圭吾はためらいなく、クレジットカードの番号を登録し、そしてゲームを開始した。


 圭吾の意識は架空の世界へと、旅立っていった。



§


 次回、デスゲーム始まる


運営「デスゲームはじめまーす。期限は二年。それまでにクリア出来なかったらゲームオーバーで、全員死亡ね」

圭吾「は?」

続かねえ!

なぜ俺はこんなのを書いて投稿してるんだ……

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[良い点] ここで切れるとは!w 斬新過ぎてある意味、裏切られた気分ですw [一言] タイトルの終わりに ・・・ハズ を付けましょうw
[良い点] ネタとしては面白い切り口 [気になる点] 現状、ゲームダイブ直前で終わりだと題名詐欺かなw [一言] デスゲームになってから課金で課金武具やアイテムを 直購入するか、ガチャで億溶かしながら…
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