スコルナ伯の死
その場所は丁度、麦畑の上。
双方の走空車の高さは1mも無かった。
収穫を待つばかりとなった麦の上を二台の走空車が車間を開けずにすれ違う。
次の瞬間、走空車同士がすれ違ったところを中心にコマの様に回転を始めた。
ギュルルルルルルルッ!!!!
「何!!」
ダンケルクはなんとか立て直そうと操縦桿を握り、操作するが回転は収まらない。
「うわくぁわわ!」
「ひいいいいい、回る回る!」
少年は操縦桿を強く握りしめたまま必死の形相で固まってしまっている。
二台の走空車は上下に揺れながら回転する。
回転する走空車同士は辺りの麦をなぎ倒し、その場に丸い跡をつける。
それはさながらミステリーサークルの様であった。
(くそ!このままでは捕まってしまう。)
スコルナ伯は回転する走空車によって扉の窓に押し付けられていた。
(麦畑ではないか!)
押し付けられた窓から辺り一面に広がる麦畑が見えた。
眼前に広がる麦畑。
高さは1mもない。
(そうだ!この高さなら落ちて死ぬことも無い。
この騒動に紛れて、麦畑の間を通れば見つからずに済むに違いない!!)
「おい!わしはここから降りるぞ!
お前はしばらく時間を稼げ!!」
スコルナ伯は少年にそう命令すると扉を無理やり開けた。
開けた瞬間、スコルナ伯は猛烈な速度で飛び出した。
一般用の走空車でも最高時速60kmを出すことが出来る。
冒険者用の走空車の場合、更に速度を出すことが出来た。
走空車は念動の魔法陣二つを使い前後左右の動きを行う。
そして、その念動は車体より少し広い範囲に効果を発揮している。
別の走空車とその範囲が重なった時、
同方向なら力が強まり、逆方向なら打ち消し合う結果となる。
最初、スコルナ伯の乗る走空車を後ろからダンケルクの操縦する走空車が接近した。
この時、重なった範囲は同方向。
その結果、スコルナ伯の乗る走空車は加速する事となった。
そして麦畑の上ですれ違った時は逆方向。
重なった範囲は打ち消しあう。
だが、重ならなかった範囲はそのまま進もうとした。
その結果、重なった所を中心に二台の走空車が回転することとなったのだ。
時速60kmで回転する物体には遠心力が働く。
スコルナ伯は遠心力が働いている状態で扉を開けてしまった。
その結果、スコルナ伯は猛烈な勢いで飛び出してしまったのだ。
スコルナ伯が飛び出したことで少年は操縦桿を緩めた。
それが功を奏したのか、回転は徐々に収まっていった。
麦畑を見るとミステリーサークルの様な円模様に突き刺さる様に一本の直線が続いている。
その直線の先、走空車を降りたダンケルクの目には
地面と接触した衝撃で首の骨が折れたスコルナ伯の姿があった。
 




