王室高等弁務官
カイ達が白金竜“グウィバー”から走空車に関しての教えを受けていた頃。
スコルナ領に屈強な男たちが訪れていた。
冒険者仕様の走空車から降り立ったのは、王家直轄ギルド“フェールズ”の主力メンバーである。
それだけでは無い。
金の縁取りをあしらった黒のケープに笏杖を持つ女が彼らに続いて降り立った。
肩までの茶色い髪を簡単にまとめ、丸眼鏡から鋭い眼光が覗く。
背筋をピン伸ばし小気味よく足音が響く。
「あのケープ!そしてあの笏杖は!!」
スコルナ伯爵の館に仕える執事達はその姿を見ると縮み上がった。
その女は王室高等弁務官の“シェラ・レオネ”と名のった。
王国での王室高等弁務官の役目は爵位を持つ者への勧告や指導を行う。
その高等弁務官がやって来たのである。
執事達が縮み上がるのも無理もない話である。
彼らの報告によって取り潰しになった家は数多くある。
伯爵家でも例外では無いのだ。
「いったいどうすればいいんだ?」
「やはり、この伯爵家を取り潰す気か・・・」
「ここが無くなったら俺達は明日からどうすればいいんだ・・・。」
館の中にいる執事達は集まると明日の心配ばかりしていた。
その中の一人が
「どうせならリュファス様に相談したらどうだ?
あの人なら何とかしてくれるかもしれない。」
「そうだ!リュファス様だ!」
一人の執事の発案によって高等弁務官の対策はリュファスの手にゆだねられた。
「王室高等弁務官か・・・」
「いかが、いたしましょう?」
リュファスは少し考えると
「・・・判った。失礼のない良い様に私が出迎えよう。
警備の者も含めて屋敷の全ての者は玄関ホールに集まる様にしてください。」
と執事達に指示を出した。
「父上は・・・」
リュファスは執事達を見回し
「そうだ君に行ってもらおう。
時間も無いことだし、中庭を通ってお連れした方が早いだろう。」
リュファスは執事と言うより、執事見習の少年にそう指示を出した。
屋敷は丁度、ロの字のような構造になっており、
スコルナ伯の部屋は屋敷の二階の正面に位置している。
部屋に行くためには左右の通路から奥へ行き、そこにある階段を使う必要がある。
少年が迎えに行った時、スコルナ伯は部屋の中をうろうろしていた。
「どういうことだ!
なぜ王室弁務官が来た!
くっ!どうやったら、どうやって逃げたら良いか・・・」
迎えに連れられて中庭を通り玄関ホールへ向かうスコルナ伯の目にある物が写った。
走空車である。
それを見たスコルナ伯の目が輝き少年に命令した。
「よし、お前!これで別邸までわしを連れて行け!」
 




