開かない扉
カイたちが走空車に閉じ込められた翌日、スコルナ伯は執事や衛兵に
「一日たってあの者達も思い直したかもしれん。
扉を開けて、仕官の是非を問え!」
と命令を下した。
命令は直ちに実行され、中庭に置かれた輸送用の走空車の扉に取り付けられた鍵が外され、扉が開かれようとしていた。
「!!何だこれは!おい!誰か手伝ってくれ!」
扉を開けようとした衛兵の言葉に屈強な者が手助けに入る。
「ふぬぐわぁっ!!!」
屈強な者が力を入れて押したり引いたりしても扉は動くことはなかった。
「くそっ!なんて固い鍵だ!」
それを見た衛兵の中の一人が
「これは呪文による鍵じゃないのか?」
その言葉に伯爵お抱えの魔術師に開錠の呪文を頼んだ。
だが、開錠の呪文は失敗した。
同レベルの魔術師が使用した閉鍵の呪文ならば八割がた開けることが可能だ。
だが、これは魔導士の作った閉鍵の魔法陣である。
錬金術と魔術の合わさった魔法陣の場合、倍近くのレベルが無いと開けることはまず不可能なのだ。
「閉鍵がかかった扉は力づくで開けることができる。
ピクリとも動かない理由がわからないのだが・・・。」
魔術師言葉を聞いた衛兵たちは
「よしそれなら!何人かで力を加えれば開けられるかもしれん。」
そう言うと何人かの屈強な衛兵が扉に取り付きこじ開けようと力を込めた。
「ぐぎぎぎぎ!」
「ふぬぐぉわー!!」
「ぬおおおおおお!」
バギャ!グシャ!!
「「「「うぎゃぁあう!!」」」」
大きな音ともにドアの取手が引きちぎられた。
引きちぎった反動で衛兵を吹き飛ばした。
取手を持っていた衛兵の腕は明後日の方向へ向き肩からぶら下がっている状態になっていた。
「うがぁ!!」
肩が砕けたのかあまりの痛みに言葉も出無い様だった。
「畜生!なんだよ!これは!」
衛兵の一人が自棄になったのか棍棒を手に取り走空車の荷台を叩き始めた。
ガン!ガシッ!ガガン!
「待て。迂闊なことをするな。
別の罠があるかもしれない。」
「別の罠?」
魔術師の言葉に疑問をはさむ衛兵達。
「そうだ。
先ほどの取手も罠に違い無い。
でなければこんなに綺麗に丸く穴が開くわけがない。」
魔術師が言う通り、取手が引き散られた扉は、中が覗けるぐらいの綺麗な丸い穴が開いている。
衛兵の一人が中を覗こうとすると魔術師が
「待ちたまえ、直接除くのではなく鏡を使って覗くのだ。」
と指示を出した。
言われた通り、鏡を使って覗くと大人しく座っている二人が見えた。
だが、外から声を掛けるが何の反応も無い。
衛兵はその事を執事に報告。
執事は何の反応も無いことを仕官する気が無いと判断しスコルナ伯に報告した。
「ふむ、一日ぐらいでは気が変わらぬか。
やはり後ニ、三日は置いておくべきか・・・」
それを聞いていたリュファスは
「父上。今の仕官しない状態でこの館の中庭に置くことは危険かもしれません。
サーバルの執事が何か感づいてこちらを調べるかもしれません。
それに、魔導士の仲間もやって来る可能性があります。」
「ふむ、サーバルの執事は問題ないが魔導士の仲間は厄介だな。」
スコルナ伯は王都でカイとの話に割り込んだ元王宮騎士のドレッドを思い出していた。
あの時はたまたま居合わせたドレッドに邪魔をされただけだが、
今回もそのようなことが無いとも限らない。
「よし!あの大きい物はシラアエガス近くの別邸に運べ。」
「あの別邸ですか、確かに見つかり難いでしょう。
それと、もう一つ提案なのですが?」
「なんだ?申してみよ。」
「はい。どうせならスコルナ領内に緘口令を敷きましょう。
あの空飛ぶ乗り物はここへは来なかったのです。」
リュファスの提案にスコルナ伯は
「おお!それは良い!
来なければここに居るはずはないのだからな。」




