魔導士は走空車を説明する
リーダー格の男がスコルナ伯の別邸についたのは三日後の事であった。
別邸は鬱蒼とした森に囲まれ中の様子をうかがい知ることを困難にしている。
建物は木造二階建ての古い屋敷で所々の蔦が絡まって、手入れはあまりされていない様に見える。
その別邸の中庭に銀色の大型走空車が置かれていた。
走空車にはいくつかの叩いた跡があり、荷台部分の両開きの扉には小さな穴が開いている。
男はその穴に近づくと中の様子を窺う。
「・・・二人ともピクリともしねえ。死んだか?」
男の言う通り薄暗い走空車の中にいる二人、
カイとハロルドは座ったままで動く様子が見られなかった。
ただ座ったままでピクリとも動かない。
「まぁ無理も無いか。
あれから十五日、水や食料も無いからな。」
男の言う通り、走空車の中には二人以外、何もなかった。
もう少し男が注意深かったら別の事に気が付いたのだが、
そこまで注視していなかった。
男は小さな穴から目を離すと運転席に移り、走空車を静かに上昇させた。
カイ達が何故閉じ込められたのか?
事の起こりは十五日前、カイがハロルドと一緒にスコルナ伯を訪れた時に始まる。
カイは移送用の走空車から一般用の走空車を中庭に下ろすと、
スコルナ伯に説明を始めた。
「スコルナ伯、これが私共の走空車最新の物、その一号機です。」
それを聞いたスコルナ伯は
「おお、これが最新型!その一号機!」
カイはあえて一般用と言う事は言わなかった。
一般用の走空車は冒険者用や商人用とは違い、貴族が乗っても問題の無い物。
優美な曲線で構成され、装飾が施されている。
それが功を奏したのかスコルナ伯はすこぶる上機嫌だった。
続いてカイはスコルナ伯や執事達に走空車の操縦方法を説明した。
誰もが見たことの無い乗り物の説明を熱心に聞き入っている。
その説明が一通り終わった頃一人の人物が近づいてきた。
「見よ!リュファス。素晴らしい出来栄えじゃないか。」
「確かに我が家の馬車と見比べても遜色のない物ですね。」
リュファスはそう言って走空車を褒めている。
ただ時々、輸送用の大きな走空車も見ていた。
リュファスはスコルナ伯に近づくとそっと耳打ちした。
「父上、少しお時間宜しいでしょうか?」
「ここで話せぬことか?」
「はい。」
「わしはリュファスと少し相談事がある。
お前たちはそれの操縦方法をしっかりと聞いておくのだ。」
スコルナ伯は執事達にそう命令するとリュファスと共に屋敷に入って行った。
 




