悪は自らを悪だと思わない
「よし!次はダンジョンの10階制覇だな。」
たった今オークを両断したアウスゼンがそう叫ぶ。
「待ってください!王都の申請は9階までです。これより先に進むのは違法行為になります。」
アウスゼン達に同行している魔法使いのラーガは引き留めようとする。
王国法ではダンジョン探索を申請以外の場所で行うことは違法となっている。それが発覚した場合、探索不許可などのペナルティを負う。
だが、
「うるせい!魔法使い風情が何をごちゃごちゃ言ってる!俺がそうしろと言ったらそうすればいいんだ!!」
「そうそう、アウスゼンさんのいう事に間違いはないですよ。」
「ここまで何とかなったんだ問題ないよ。」
「今日は食料の余分もたっぷりあるしね。」
取り巻きのシュガー達も一緒になってラーガを糾弾する。
「しかし、それ以前に9階までの攻略の用意しかありません。10階となると敵も違うはずです!情報さえないままだと危険です!!」
ラーガは無謀に先へ進むアウスゼンに危うさを感じたのだろう更に詰め寄った。しかし、ラーガのその行動はアウスゼンの怒りを誘うものだった。
「この野郎、まだゴチャゴチャ言うか!!」
どごっ!!
アウスゼンの拳がラーガの腹にめり込む。
「ぐはっ!!」
盛大に吐瀉物をまき散らし壁に叩きつけられる。
ドゴ!ドゴ!ドゴ!
うずくまっているラーガに追い打ちをかける様に蹴り飛ばす。見るとラーガは吐血し気を失っている。
「けっ!後ろでいるだけの魔法使い風情が逆らうからこんな目に会うんだ。」
「でもアウスゼン。やつを連れていかなくていいのか?」
「ほっとけ!どうせいなくても問題はない!いつもはこの辺でなくなる食料も今日は十分ある。」
「これもあの足手まといを解雇にしたおかげですね。」
「全くだ。ハハハハハ。」
そう吐き捨てるとシュガー達を連れて10階へ移動していった。
アウスゼン程度の頭では“敵が変化する”といった想像することさえ出来ない。
実際、10階からはダンジョン自体の構造が変わり罠の数も種類も増える。それらの情報さえ持たずに進むことは無謀を通り越して愚かとも言えた。
今までの探索ではカイがその無謀な行動を止める為にわざと食料を少なく持って行っていたのだ。
だが、今はその行動を止めるものは何もない。