囮
「サーバル男爵とその供の方は領地に帰りましたぞ。」
とスコルナ伯の執事からそう告げられた。
その上、「領地を出た後の行方は知りようがありません。」
と言われれば引き下がるほかはなかった。
ディンカ達は体よくスコルナ伯の執事から追い返されたのだ。
「なぁ、このスコルナ領は何かおかしくないか?」
スコルナ伯の館から出るなり、スタンがみんなに尋ねた。
「そうね。
あれだけ空を気にしている領民が走空車を見たことも無いと言うのは変だわ。」
バハルがスタンに答える。
「スコルナ伯は走空車に乗っていた。
その姿は領民なら見ているはずなのだが、誰も走空車を見たことが無いと言う。」
そう言うとディンカは
「やはり領民に口外するなと命令を出しているとしか考えられないな。」
スコルナ領内だけでもかなり広く領民も多い。
その領民に対して口止めできる体制があることを意味していた。
「だが、俺達が訪れたことでスコルナ伯に何か動きがあるかもしれない。」
ディンカはそう言うとスタンやバハルに指示を出す。
「すまないがスタンは何時でも動ける様に走空車で待機してくれ。」
「了解。それは仕方が無いだろう。」
スタンは親指を立てて了解のサインを出す。
「バハルは町の出入り口が見える所に宿を取ってくれ。」
「怪しい奴がいないか見張るのね。」
バハルは頷き了解する。
「私は何をすれば?」
「ロインさんは私と一緒に酒場に行って聞き込みをお願いします。」
その夜、スコルナ伯爵の館から秘密裏に移動する者達がいた。
黒く染めた皮鎧に黒いマント、フードを着け闇に紛れる格好をした男たちが三人。
三人とは別にごく普通の皮鎧を着けた男の四人である。
リーダー格らしいその男が口を開いた。
「どうだ?
冒険者の奴らは気付いているか?」
黒い皮鎧を着た男の一人が答える。
「酒場で色々嗅ぎまわった後、宿に入ったまま出てきていないようです。
ただ・・・」
「ただ?」
男が聞き返す。
「やつらの一人は、空飛ぶアレに乗ったまま宿に入ってないそうです。」
報告を聞いたリーダー格の男は三人に指示を出す
「よし、手はず通りに行動するぞ。
お前は奴らをおびき出せ。」
「ディンカ!変な三人組が町を出ようとしているよ!」
「何!・・・あれか!
黒っぽい姿で顔を隠しているな。」
「門番をせかして急いでいる様だよ。」
「よし!スタンにそいつらを追いかけさせよう!行くぞ!」
そう言うと慌てて宿を出て行く。
もし、その三人組を見たのがルリエルやフロームの遊撃士であったなら
その不自然な行動、“見るからに怪しい恰好で町を出ようとする“に気が付いただろう。
だが、ディンカもバハルも戦士であり、隠密行動に詳しいわけでは無かった。
彼らの目には夜の闇に紛れる為の姿に見えたのだ。
ディンカ達が予想でその三人組を追いかけた後、ゆっくりとだが周りを警戒しながら町の門を出る商人風の男がいた。
その顔は三人組に命令していた男の顔にどこか似ていた。




