走空車の足あと
スタンは走空車を麦畑の側道に着地させた。
カイ達が乗っていた走空車を見たか尋ねるためだ。
走空車が着地すると畑にいる人達が遠巻きにこちらを伺っている。
「よし、あそこでこちらを見ている人に尋ねてみよう。」
ディンカがそう言うと、バハルが止めた。
「行くのは良いけど、鎧は脱ぐべきよ。」
人に物を尋ねるのに、鎧を身に着けていると威嚇しているようで、
相手が逃げていくことが多いそうだ。
バハルの言うことも一理ある。
そう考えて鎧を脱いだディンカは相手に近づいた。
近くディンカに相手は警戒されているようだが、
逃げ出すことはなかった。
「あんたら、何処から来なすった?」
ディンカは警戒しながら尋ねる男に対し、
ニッコリ笑って話をする。
「サーバルからやって来ました。
少し尋ねたいことがあるのだけれど、
時間はありますか?」
そう言って男に銀貨を何枚か握らせる。
「サーバル領か・・・
判った、何でも聞いてくれ。」
銀貨を貰った途端、男の愛想がよくなる。
「ありがとう。
聞きたいのは何日か前にあれと同じ様な物が、
空を飛んでいなかったか?
と言うことなのですよ。」
「あれと同じ・・・、確か十日ほど前に似たような物が飛んでいた様な?」
「それはどちらの方へ?」
「うーん。最後まで見ていなかったからなぁ。」
男はそれほど詳しく見ていなかったようだ。
「おいら知ってるよ。」
いつのまにかやって来た男の子が声を上げる。
「あの銀色のヤツはあっちの方へ行ったよ。」
と行って指を指した。
どうやら、道なりに移動しているように思える。
「ありがとう。坊主。」
ディンカはそう言うと、男の子に銀貨を一枚握らせた。
「ありがとう。おじちゃん。」
男の子はそう言うと走っていった。
(まだおじちゃんと言われる年齢じゃないんだけどな。)
ディンカは少しガックリした様子で戻ってきた。
「ロインさん。カイさん達は道なりに移動しているようです。
何か理由を知っていますか?」
「道なり、この方角はこの間とは違います。
多分視察も兼ねているからでしょう。」
カイはハロルドの視察も行なっている。
これも走空車での移動が早いため出来る事なのだろう。
「視察、と言うことは足取りをつかみやすい?」
話を聞いたスタンはロインに尋ねた。
「そうですね。
このコースの視察だと立ち寄る町や村は決まっています。」
「そうか、じゃあ、立ち寄る場所で領地の境界近くは?」
ロインの言葉にディンカが立ち寄る場所を尋ねた。
境界近くの場所から捜索する事で時間を短縮するつもりだ
ディンカの目論見通り、カイ達の足取りが判った。
境界の町を出た後は真っ直ぐスコルナ領を目指している。
だが、走空車の目撃証言はスコルナ領へ近くにつれ少なくなっていった。
スコルナ領と周辺の領地は麦畑が多く、走空車の事故があればすぐ判るだろう。
そして、事故の情報がないままスコルナ領を訪れた。
スコルナ領直前の町でカイ達の行方を尋ねることのできたことは僥倖と言えた。
その証言もスコルナ領に入ってから全く手に入らなかった。
どの村人、町人も“知らない、見たこともない”と言った。
スコルナ伯爵の館を訪れたディンカ達は走空車を動かすスコルナ伯爵を見た。
(おかしい?何故、スコルナ領で目撃されない?)




