捜索の開始
サーバル領までの移動は冒険者仕様の走空車二台で行われた。
冒険者仕様は、窓が二つ、荷台の側面とその床面に取り付けられていた。
窓の部分は二重になっており、外側の装甲と内側のガラス窓がスライドすることで解放できる。
二台の内の一台にルリエルとフロームの遊撃士が乗り、ガラス窓から外、地上を捜索していた。
「今のところ。墜落の痕跡はありませんね。」
フロームがガラス窓から捜索していたフロームがそう報告する。
「痕跡、無し」
同じ様にルリエルも報告。
それを聞いた操縦者のニライは
「では、もう少し先を調べましょう。」
と言い走空車を先に進める。
彼らは走空車が墜落した痕跡が無いか予想されるルートを虱潰しに捜索しているのだ。
虱潰しの捜索といっても一日中できるわけではない。
エルフは目が良く、“夜目”の能力を持つ。
と言っても昼間の捜索とは比べ物にならない。
夕方からは、途中の町や村での聞き込みになる。
昼間は探索、夕方から夜は聞き込みといった行動をとる。
サーバルまで時間のかかる行程だった。
聞き込みはニライが担当した。
神官戦士という職業柄、村人から信頼されやすいからだ。
「こちらは有力な情報はありません。
何かが落ちたという話も空を何かが飛んでいたという話もありません。」
ニライは村人や村に泊まっている貿易商から聞き込んでいた。
幾つかの村で聞き込みを行ったにも関わらず有力な情報は得られない。
走空車の飛行目撃が無いのは
空を飛ぶ走空車は小さく見えるのと音がしない為だろう。
「墜落無い、安心。」
ルリエルは“墜落の情報が無いから、ひとまず安心している”旨を伝えた。
「では、今日はここの村で宿を取りましょう。
明日の捜索に向けて十分休憩を取ってください。」
一方の走空車にはディンカ、スタン、バハルの三人が乗る。
道中の探索や聞き込みがあまり得意でないのと、走空車の操縦を得意とする為、真直ぐサーバル領へ向かう。
「最初はスタン、八時間後にバハル、その後は俺が操縦しよう。」
ディンカは走空車操縦の順番を決めた。
「途中の休憩はどうする?」
スタンがディンカに尋ねると
「馬車の時と同じ二時間おき?」
バハルが馬車の時と同じ時間を提案する。
「そうだな、二時間おきに10分ぐらいだな。」
スタンは
「おれは二時間じゃなくても走れるぞ。」
と言ったがディンカがそれを止めた。
「それはダメだ。
強行軍だし、向こうで何かあるか判らない。
休憩は必要だ。」
結局、彼らは昼夜三交代でサーバル領に向かい、通常五日の行程を三日で走った。
道中の食事も走空車の中で済ませる。
サーバル領では走空車をサウルが借りている商家に着地させた。
輸送用の走空車使用の想定をしている為、冒険者仕様の走空車なら二台は楽に着地できる広さがある。
サーバル領の領主の館は商家からそう遠くない位置にあった。
少し高台にある防護壁に囲まれた屋敷である。
「すまないが、領主のサーバル男爵に取り次いでもらいたい。
私はリモーデで冒険者をしているディンカと言う者だ。
男爵様の弟であるカイ殿とは同じギルド、“リムスキレット”に所属している。」
ディンカは屋敷の門番に取次ぎを頼み、ギルドカードを見せた。
「判った。少し待ってくれ。執事のロイン様に聞いてみる。」
程なく、口ひげを蓄えた初老の男が出てきた。
少し疲れた様子でディンカに挨拶をする。
「ようこそ。サーバル領へ。
わたしは執事のロインと言う者です。
今日は、何用で来られたのでしょうか?」
「じつは、こちらを訪れたカイ殿がまだ戻っていないので訊ねた次第なのです。」
ディンカのその言葉を聞いたロインは
「それは!・・・・ここでは何ですので中へどうぞ。」
と屋敷の中へ案内した。
彼ら三人は冒険者であるにもかかわらず客間に通される。
そして三人が訪れたサーバル領の領主の館で驚くべきことを聞かされた。
「じつはこの館の主、サーバル男爵様はカイ殿と出かけられて戻っていないのですよ。」
 




