サーバル領へ
「カイさんはいるか?」
カイが再びサーバル領へ出発して十日後、
ダンジョンから帰ってきたスタンが工房を訪れた。
工房は昼休みの時間だったらしく、フィリアやルリエル、ドワーフ兄弟にギルド長と言った、いつものメンバーがくつろいでいる。
「頼まれていた割れたコアを持ってきたのだが。」
カイはスタンに精霊石に加工するコアを依頼していたようだ。
「カイさんならこの間、サーバルに行くと出かけたまま帰っていませんよ。」
工房の留守を任されているフィリアが答える。
すっかり工房の窓口と定着している。
「そろそろ十日、帰ってくるはず」
食事を終えたルリエルも答える。
「そうじゃなぁ。
そろそろ戻ってこないと超大型の製作が進まんわい。」
「進まんわい。」
グメルとガミラも超大型走空車の事で昼休みには必ず工房を訪れていた。
「前回帰って来た時は一日しかいなかったみたいにゃ。
もう二十日ほど工房を留守にしていることになるにゃ。」
ギルド長のヴァニアがお茶を飲みながら工房でくつろぐのが日課らしい。
「ギルド長が何で工房に入り浸っているのですか?」
そう言うスタンはあきれ顔だ。
「うみゃ。ここは居心地がいいからにゃ。
でも、カイ殿に用があったのだけどまだ戻ってないにゃ。」
「そうか、まだ帰っていないのか。」
スタンがしばらく待つか今日はこのまま帰るか考えていると、
商人のサウルもやって来た。
「こんにちは。カイさんはいますか?」
「あ、サウルさん。
すみません、カイさんはまだ帰って来てないのですよ。」
フィリアがそう答えるとサウルは
「そうか、出かけたのか。いつ頃戻るかな?ダンジョンかな?」
「いえ、サーバル領からですので、いつ戻るか判らないです。
もう戻ると思うのですが・・・。」
「え?戻ってない?サーバル領から?」
「はい、そうですけど・・・なにか?」
「いや、五日前、入れ違いでサーバル領へ行ったのだが、いったい??」
それを聞いてその場に居合わせた六人は顔を見合わせた。
フィリアが少し青い顔で
「まさか途中で何かに襲われた?」
「いや、それは無いだろう。
空を飛ぶのだぞ、それに普通の魔獣や盗賊には襲われない。」
走空車の操縦に詳しいスタンが答える。
「竜種?空飛ぶ?」
と言うルリエルの疑問はサウルが
「その可能性は否定できない。が、竜種に襲われたのなら私も襲われるはずだ。
道中にも何かあると思うが・・・」
「やはり、サーバル領へ行って話を聞く他は無いにゃ。
道中も何か痕跡が無いか調べるべきにゃ。」
とヴァニアが提案する。
「うむ、ならば移動用の走空車を使おう。冒険者仕様の新型があったはずだ」
「あったはずだ。」
グメルとガミラはそう言うと走空車の確保に走る。
「よし、俺は装備を取ってくる。」
スタンはサーバル領へ行くための準備を始めた。
「他の人、呼ぶ。」
ルリエルがそう言うとヴァニアが
「うにゃ、ディンカ達もメンバーにいた方が良いにゃ。」
「ギルド長は出かけませんよね?」
フィリアは出かけることが無いようギルド長にくぎを刺した。
「うーみゅ。そうだにゃ、仕方がないにゃ。
カイが納めている回復薬は大丈夫かにゃ?」
「在庫がありますので一月分は確保できますがそれ以上は・・・」
「それはうちが辺境伯に説明するにゃ。」
「よし、全て揃ったな。」
翌日、サーバル領へ向かうメンバーが集合する。
サーバル領にはディンカ、スタン、フローム、バハル、ニライ、ルリエルの六人が行くことになった。
ガミラとグメルも行きたがったが、工房での作業がある為、人選から外れてもらった。
受付嬢のフィリアも選外である。
「では、最速でサーバル領へ向かうぞ!」
「「「「「おー!!」」」」」
六人を乗せた走空車は今までの冒険者仕様の物より大きい。
食料や薬などの物資も十分な量が積み込めた
走空車は一路サーバル領へ向かうのだった。




