魔導士の回想
「すまないな。これも貴族の務め、判ってくれ。」
ハロルドはすまなさそうに謝った。
「でも兄さん。この町に商店を開くのはかまわないだろう?」
「これらの魚を売る店か?」
「ああ、魚の他も扱うつもりだよ。あと、カシオの輸送もね。」
「判った。店はどうするのだ?」
「この後、魚を売るからその後だね。じっくりと見てまわることにするよ。」
カイはハロルドに挨拶をすると市場に出かけた。
市場に着くや、魚は飛ぶように売れ、それと同時にカシオも走空車の荷箱一杯になるぐらい集まった。
荷箱の中身はカシオだらけで他の者が入る隙間が無いほどである。
十分なカシオを集めた俺達は、次からの拠点となる店を探していた。
そんな時、サウルはカイに
「カイさんは思い切った手を取らないのですね。」
とハロルドとのやり取りを尋ねてきた。
自分の利益にはならないのに法外な値段のする走空車を無料で与える。
サウルからすれば考えられない事なのだ。
「でもね。サウルさん。
今の僕があるのは兄さんのおかげなのですよ。」
「・・・少し聞いても?」
「別にかまわないよ。事実だし。」
と言うとカイは少し昔の話を始めた。
カイの実家のサーバル男爵家は貴族と言うほど裕福では無かった。
領地の耕作地は土地が痩せていることもあり収穫量が少ない。
その上、近くには手つかずの密林が存在する為、そこからの害獣の被害が大きい。
貧乏男爵と言っても良い内容なのだ。
辛うじて領地を維持できているのは近くに小型のダンジョンがあるおかげであり、
それが土地を痩せさせている原因でもある。
ダンジョンを潰せば土地は回復するのだが、回復するまでに何年もの時間が必要になる。
それまでの収入のやりくりが出来ない為、ダンジョンを潰せない。
そんな貧乏男爵家の五男としてカイは生まれた。
カイは他の兄弟とは幼少の頃より魔術師系の資質を示していた。
だが、本格的に魔法を学ぶことの出来る学校は王都にしかない。
その学費もかなり高い。
貧乏男爵家の五男が王都の魔法学校に入学することは考えられない事なのだ。
当時のカイは家系や立場を知っていた為、魔術師になることは諦めていた。
だがそんなカイを後押ししたのが兄のハロルドだった。
当時、領主になって直ぐの時であったが、周りの反対を説き伏せ学費まで工面してくれた。
「だから、魔導士のカイが存在するのは、兄さんのおかげなのですよ。」
そのカイの言葉にサウルは
「それは、仕方がありませんな。」
と言うほかはなかった。




