サーバル男爵の事情
スズキは北の海で取れる一般的な魚である。
身は白身で癖も無くあっさりしてり、生で食べられること多い。
その上、捨てる部分が無いほど様々な料理に使うことが出来る。
「カイ。ここサーバルでは生の魚は腹を壊すのを忘れたのか?」
ハロルドは少し呆れた顔でそう言った。
「兄さん。これはサーバルの川魚じゃないよ。
リモーデの近くの漁村、ウェスリックで取れた魚だよ。」
「ハハハハハ。何を言っている。
リモーデからここまで、四日で着くと言ってもこんなに新鮮な魚があるわけなかろう。」
それを聞いたカイはニヤリと笑い
「それを可能にするのが、今回の輸送用の走空車だよ。
兄さん。他の魚も見てみる?」
「ふむ?他の魚とな?」
「ハロルド様。これは見ておいた方が良いと思いますぞ。」
ロインの勧めもあって走空車に入っている魚を見ることにしたようだ。
「何と!今日は驚いてばかりだな。
これは蟹と言う物じゃないか。
昔、若いころ王都で食べたことがある。」
「旨いのですか?」
「旨いとも!!
それにビンゴやレンコにスカラップもあるじゃないか!!」
走空車の荷物室には様々な魚介類が、所せましと置かれていた。
「兄さん。欲しいものをいくつか言ってくれ。
あとは市場で売るつもりだ。」
「なるほど、それでこんなに多くの魚介類があるのか。
ふむ、そうか、それは良い考えだ。
ここの獣人たちは魚好きだからな。」
サーバル領には猫型の獣人が多く住む。
黄色や黄褐色で小さな黒い斑点と筋状の黒い模様が特徴だ。
彼らは総じて魚類を好んで食べていた。
「しかし、彼らはそれほど裕福ではないから、買ってもらえないかもしれません。」
ロインは彼らの懐事情に詳しいのか忠告を送ってくれる。
「大丈夫です。お金では無くて物々交換でも対応する予定です。」
「そうでございましたか。
しかし、カイ様、彼らの何と交換するのです?」
「予定では“カシオ”なのだけど、他にこの土地の物と交換する予定です。」
と、カイはロインに説明すると真剣な顔になった。
ハロルドに向き直すと
「ところで兄さん。スコルナ伯爵の寄子でいる必要があるのか?」
と疑問を投げかけた。
「・・・確かに、走空車を使えば必要な物資は手に入れられる。」
ハロルドは少し残念そうな顔で答える。
「だが貴族の付き合いとはそう簡単に済むものでは無いのだよ。
交易だけではない、いざという時の防衛も必要になる。」
そして少しため息をつくと
「スコルナ伯爵はあんな人物なのだが、
後継者であるリュファス殿は気配りの出来る人物なのだよ。
それにロデシア子爵にはずいぶん世話になっている。
恩を仇で返す様なことは私には出来ない。」
小さいとはいえ代々続く男爵家。
続いているなりにいろいろしがらみも多いのだろう。




