辺境伯はカイより始める
「よろしいのですか?」
カイが去った後で執事が主である辺境伯に訊ねた。
「辺境に魔導士がおりません。とはいえ、回復薬100本の報酬が工房と言うのはいささか多すぎる気がしますが?」
執事は辺境伯に長く使えていおり、後々問題になりそうな事を辺境伯に訊ねる様にしている。
「確かにな。」
ファウンテン辺境伯は言葉を続ける。
「それだけを見れば、破格の報酬だろう。」
「あの魔導士と同行した冒険者の話によると、ここにに来るまで盗賊しか見ていないそうだ。」
「まさか!そのようなことがあるとは考えられません。途中にはグレートハンドやワイルドビーストの生息する森があるのですよ?」
「更にその盗賊も10kmほど手前の位置で発見したらしい。」
「10、10kmですか・・・」
一般的な索敵範囲は目の良い人で5km、それは見通しの良い地形での話である。リモーデに来る道中は起伏も多く森の中を通る。その為、見通しは悪い。
良くて1、2kmほどしか見通せないだろう。
「戦闘時の援護も適格で非常に良かったとも聞いている。その上、錬金術師としてもかなりの腕であるとの報告もある。」
「あの魔導士が我が町で活動する以上、工房を必要とするだろう。必要になってから工房を与えるより、今与える方が、多少の事なら無理を通しやすくなると言う物だ。」
「ですが、王都での評判通りの役立たずであったら?」
「その頃にはあの魔導士より良い魔導士が来る。」
「?」
執事には辺境伯の考えが判らなかった。
「あの魔導士が役立たずであったとしよう。」
「はい」
「そのような者に工房を与えるならば、それより出来る者はこう考えるだろう。
“役立たずに工房が与えられるのなら、俺の待遇はもっと良いはずだ。”
と。」
「なるほど!流石は辺境伯。恐れ入ります。」
「どちらにしろ、このリモーデにとってどっちに転んでも何の問題にはならない。」
そう辺境伯は呟くと、ニヤリと笑った。