魔導士は兄弟と会う
銀色の箱そりの様な空飛ぶ乗り物からカイが降り立つと、
ハロルドはその手をがっちりと握りカイを抱きしめた。
「よく、よくぞ帰ってきた!!これで我が領地は安泰だ!!」
「ううううう。私めもだめかと思いましたが、帰って来られるとは・・・感無量です。」
執事のロインに至っては涙を流している。
「?????」
あまりの事にカイは反応できないでいるとハロルドが
「おお、いけない。長旅で疲れたろう、部屋を用意する。」
「あ、ああ兄さん。ありがとう・・・。」
カイにしてみれば、奇妙な乗り物で空から降り立ったのに何もお咎めが無い。
それどころか歓迎される事に戸惑いを隠せないでいた。
「うむ、麗しい兄弟愛ですな・・・ところでこの銀の乗り物?は何処へ置きましょうか?」
執事のロインはカイにそう尋ねた。
「ああ、走空車か。積み込む物があるから市場の方へ・・・」
「「これがっ!!グエルかっ!!」」
ハロルドとロインが同時に叫んだ。
「ぜひ譲ってくれ頼む!」
「はい?」
「・・・つまり、スコルナ伯から走空車を献上しないと縁を切ると言われたと?」
「うむ、そうなのだ。」
カイ達は館の居間に通されていた。
この場にいるのは商人のサウルだけで操縦士のスタンは走空車の整備をしていた
「うーん。期日は残り20日か・・・王都へ寄らずリモーデに直接戻って
・・・何とか間に合うか。」
その言葉にハロルドは慌てて聞き返す。
「まて、まて、まて、まて、お前は何を言っている?
ここから王都まで半月、王都からリモーデまで一月、どんなに頑張っても一月以上はかかるぞ?」
「兄さん。それは馬車での話だろう。
走空車ならリモーデまで四日で到着できる。」
「何!?走空車はそんなに早いのか?」
「速さ的には早馬の倍の速さで走る。」
「早馬の倍!」
「そして走空車は魔道具だから早馬と違い疲れません。
だから、操縦者の体力が続く限り進む事か出来ます。」
「それで四日か・・・魔道具、なるほど。
それに、あの走空車を渡すと逆にリモーデまで帰るのに時間が掛かりすぎるか・・・。」
「ええ、だからリモーデまで帰って別の走空車を持ってこようかと思っています。」
「別の!いいのか?魔道具だから結構な値段になると思うが、幾らぐらいになるのだ?」
ハロルドは話過ぎてのどが渇いたのかお茶を飲みながら訊ねた。
「えーっと。今回持ってきた輸送用の走空車で8,000GPかな?」
「ぶォぅ!」
あまりの金額に思わず吹き出すハロルド。
「おっと、あれは輸送用の特注品だからね。
だけど、持ってくるものはもう少し安いよ。」
「そ、そうか、で?」
「外面の装甲が少し薄い分安くなって、3,000GPかな。」
「「!!」」
「さんせんじーぴーですか。」
ロイドも驚きを隠せない様だ。
「でも、走空車にそれだけの価値があるのは間違いないよ。
それに今回の特注品も値段には理由があるのですよ、兄さん。」
カイはそう言うと召使に料理を運ばせた。
居間のテーブルの上に大皿が置かれる。
その上には白い切り身と青いハーブ、そしてオリーブオイルが掛けられていた。
「この館の料理人に作ってもらいました。」
「カイ、何だね?これは?」
「スズキのカルパッチョです。」
カイは南の奥地にある故郷で北の海で取れる魚料理を出したのだった。




