魔導士は空からやって来くる!
スコルナ領からの帰りの十日間。
ハロルドは途中で音を上げる事は無かった。
いや、伯爵からの頼みごとが頭に占めており音を上げる暇がなかったと言うべきだろうか。
ハロルドは館に帰りつくなり、執事のロインに
「王都にいる末の弟、王都のギルドで魔導士をしているカイに手紙を送った。
帰って来た時の為に部屋の用意がいる。」
と指示を出した。
「ハロルド様、お忘れですか?」
「ん?」
「四ヶ月ほど前、魔道焜炉なる物が送られてきましたでしょう。」
「おお、あれは便利なものだと、料理長が言っていたぞ。うん。」
「その魔道焜炉、誰が送って来ましたかな?」
しばらく考えると思い出したのか、
「おお、そうだ。確かカイがリモーデから送って来たのだった・・・ハッ!!」
「そうです。カイ様はリモーデへ住所を移しているのです。」
「リモーデだと!ここから王都まで半月、王都からリモーデまで一月。
とてもじゃないが間に合わない!!」
そう言うとハロルドはがっくりと肩を落とした。
「ハロルド様、スコルナ伯からいったい何を言われたのでしょうか?」
「グエルだ!」
「ぐえる?それはいったい何でしょうか?」
「何でも馬車の魔道具らしい。カイが作ったとスコルナ伯から聞いた。」
「スコルナ伯はそれを一月以内に持ってくるようにと、
持ってこないと縁を切ると言ってきたのだ。」
「それは由々しき事態ですな。」
サーバル男爵がスコルナ伯の寄り子でなくなった場合、優遇措置が無くなる。
スコルナ伯系の領地を通る際の通行税や施設の利用する際の利用税が掛かるようになるのだ。
それは、必要な物資を輸入しているサーバル領全体にとって重荷になるのは目に見えていた。
「もはや打つ手がないな。」
「はい、時間が無さすぎます。」
ハロルドとロインが対策に頭を悩ませていると兵士が駆け込んできた。
「大変です。ハロルド様!!」
「なんだ!騒がしいぞ、何事だ?」
「はい、すみません、ロイン様。
ですが、北の空から銀色の物がこちらに急接近していると報告が!」
「北の空?銀色の物?それは魔物か?」
「判りません。見張りからすごい速さだと!」
「すごい速さ?全くわけが判らん。」
ハロルドとロインは急いで庭に出て北の空を見る。
「確かに何やら銀色の箱のような物が飛んで来るな。」
「弓兵!弓の用意は!!迎撃用意!」
「まて!迂闊に攻撃して敵対されたらどうする。
先ずは様子を見るのだ。
それに、あの銀色に輝く外皮に矢の効果があるとは思えん。」
ハロルドは弓兵での迎撃を止めた。
迂闊な攻撃で滅んだ町はいくつもあるのだ。
まして相手は空を飛んでいる。
(新型のドラゴンかもしれぬ・・・)
そんなハロルドの心配をよそに、
銀色の箱の様な物はゆっくりと前に降りて来た。
箱は底に箱ソリの様な形をしており、馬車の様な屋根が付いている。
前方の側面には四角い窓が開いており、見覚えのある顔が手を振っていた。
「おーい!兄さん!!」
末の弟のカイが奇妙な物に乗ってやって来た。
腹痛についてご心配をかけ申し訳ありません。
大きな病院で精密検査(検尿、採血、CT)をやってもらいました。
現在はすっかり治っています。




