スコルナ伯領
馬車でサーバル領からスコルナ領まで移動する。
片道十日の旅である。
領主のハロルドはその道程に根を上げていた。
「うむううううう。あいかわらず尻が痛い。そして気分が悪い」
無理もない。
領主になって出歩くのは領内、それも馬に乗ってニ、三日で見まわれる狭さである。
何日も馬車に乗ったのはスコルナ伯に領主就任のあいさつに行った時ぐらいで旅に慣れていない。
嫌な予感しない所へ行くのも気分の悪さの原因になっているのだろう。
「今日も変わらずシラアエガスの天辺は白い。
わし何でこんなところにいるのだろうな。」
ハロルドは領地のはずれにある高山、シラアエガスを見てそう呟いた。
途中に雪エルフと言われるエルフの集落があり、
山の頂上には雪の様なドラゴンが住むと言われている。
そんな山を見て現実逃避するのは無理もない事なのだ。
今回の伯爵の願いを叶えて褒美をもらったとしても、ハロルドの上に来る子爵、
スコルナ伯の系列でも三人存在する。
その三人に対するお詫びだけで赤字になることは目に見えていた。
(直系のロデシア子爵は話が分かる人だから何とかなるかもしれないが、
他の二人には面識がないからなぁ。
ロデシア子爵に頼みはしたがさて・・・。)
「ハロルド様。町が見えてきました。」
御者の声に前方を見るハロルド。
「やれやれ、やっと到着か。
少し休んでいきたいが、直ぐに挨拶せねばならないだろうな・・・。」
スコルナ伯爵領の中心地、ロアンは人口が8,000人ほどの小都市である。
ただ、小都市にしては薄汚れている。
前領主の政策で上下水道の工事を行っていたのだが、現領主に変わり財政が悪化。
上下水道は半分もできていない状態で計画は中止された。
その為、町の半分ぐらいまでが上下水道のある貴族や上級市民の住む町となる。
上下水道の無い町半分は流民などが住み着き半スラムと化している。
(やけに流民が多いな・・・前来た時はもう少なかった気がする。)
ハロルドはスコルナ伯の待つ館へ向かう道すがら見かける流民の数に驚いた。
流民の多くは戦争で焼けだされた民や農村で生活できなくて都市部へやって来た者たちである。
少しでも稼げるようにと都市部へ出てくるのだが、そのような者にまともな職はない。
その様な連中が数多くいることに、彼らがこちらを見る目にハロルドは驚いたのだ。
ハロルドは到着するやスコルナ伯から直接出迎えられた。
伯爵が寄子の最底辺である男爵を出迎えることは考えられない。
普通は執事が出迎える物である。
「スコルナ領へようこそ、サーバル男爵、歓迎するよ。」
その瞬間ハロルドは猛烈に後悔した。
カイとサウルは次の日から新たな走空車の製作を始めた。
走空車だけなら一人ででもできるが、今回は保存用の箱を取りつける。
その場合は実際に使用する者の意見が重要となるのだ。
「カイさん。箱の大きさが1m角ではそれほど物は入りませんよ。」
「おいおい、一体どれぐらいの量を入れるのだ?」
「そうですね、馬車一台分だから幅と高さは1.8m、長さが3mほどでしょうか。」
「それだと操縦席より後ろ側ほとんどが荷台になるな、走空車の長さを変えるか・・・」
「それと、扉は二か所、操縦席側にも付けていただきたい。」
「ふむふむ、それだと魔法陣の構造に若干手を加える必要があるなぁ。」
今回使用する魔法陣は、扉が閉まると魔法陣が完成され効果が発揮する。
これは扉が一つの用の物で二つ様だとその構造を変えなければならないのだ。
他にも、閉じ込め等の安全対策も必要だった。
(2週間で試作を考えていたけど、それより時間がかかるな。)
「ところで、カイさん。試作機の試運転はどうします?」
「試運転か・・・」
少し考えた後で
「試運転はコウショウの買出しにしよう。」
腹痛で一回飛んでしまいました。(ついでに下血)
市販の風邪薬でも怖いものがあるねぇ。




