魔導士は再び錬金術の講義をする
カイは工房に前に講義をした時の人達に声を掛けた。
魔道具を作り始めるのと同時に錬金術の講義をする為である。
実際に作っている所を見ることが錬金術への早道であると考えたからだ。
既に工房には二十人ほど集まっていた。
前の席にはジョン少年たち子供が座り、後ろでは大人が立っていた。
その中には以前知り合った商人のサウルの姿も見える。
他にも商人は来ている様だ。
“今回は酒を造らない”と言ったらグメルとガミラは来なかった。
酒ではないが酒に関する魔道具なのだが・・・。
カイは集まった生徒に向かい早速講義を始めた。
「さて、魔道具を作るにあたって注意しなければならない事は何だと思う?」
先ずは軽く質問する。
そんな中で少年の幼馴染のトレーシーが答えた。
短めの金髪のかわいらしい女の子である。
「必要な材料や器具が揃っているかですわ。」
「ではそれは何故だい?」
「材料が貴重だから大切にしなければならないから・・・でしょうか?」
「その考えも一理あります。
でも、実際の魔道具制作は材料が貴重な事よりも安全面を重視しなくてはいけません。」
「安全面を軽視したばかりに製作は失敗どころか死にそうな目に会う、
実際には死んでしまう事もあり得るのです。」
「では安全を考慮するのにどの様にすれば良いのか。」
「製作の手順を確認することで、
“何時、どの様な危険があるのか“を予想するのです。」
「製作の手順は必要な材料や器具を確認することで確認します。」
「つまり、必要な材料や器具を確認することは制作の手順を確認することに繋がり
更には安全に作業することにつながるのです。」
「では、早速、必要な材料、器具、手順を確認してゆき・・・・・。」
カイは一通り確認作業した後、魔道具の組立を始めた。
「この魔法陣は閉じた空間の時間に作用します。
魔法陣を完全に取り囲むように枠を配置し、蓋をつけることで箱の役割をします。」
器用に魔法陣を底に設置した箱を作り上げた。
「そしてこの箱のふたを閉めることで閉じた空間が出来上がり、
内部の時間の進み方を変えることが出来る。」
「今回は、鞄と違って魔法陣により時間の加速がかかっている。」
するとカイは鞄からたくさんの房の付いた青い三日月状の物を取り出した。
「これは“カシオ”と言う果物で、とても傷みやすく一週間ほどで黒くなります。
今回はこれを時間経過の指針に使います。」
そう言うと房から一本の“カシオ”を切り取り、皿の上に載せた。
「今回、この魔法陣は蓋を閉めることで中の時間の速さを200倍にします。
黒くなるまで一時間ぐらいでしょうか?
待っている間は“カシオ”でも食べながら待ちましょう。」
と言って、更に二房ほど取り出した。
「先生。これどうやって食べるんだ?」
「ああ、皮をこうやって剥いて中身を食べるんだ。」
カイが器用にカシオの皮をむくと中から白い三日月状のものが出てきた。
それを食べる。
口の中に微かな酸味とほのかな甘さが広がり至福の表情を浮かべた。
それを見た子供たちは我先にカシオに齧り付いた。
「「「「「!!!」」」」」
「甘―い!」
「少しねっとりしているけどおいしい。」
甘味の代表である砂糖は平民にとって貴重なもので滅多に手に入らない。
森の近くに町があるとはいえ、蜂蜜も錬金術の材料でもあるため高い。
甘味に飢えていると言ってもいいのだ。
「先生、もう一本食べてもいいか?」
何人かの子供たちは目を輝かせながら訊ねる。
「構わないよ。無くなれば取りに行けばいいのだから。
でもあまり食べ過ぎないようにね。」
カイがそう言うや否や何本もの手がカシオを取っていった。
「このカシオってうまいなぁ。」
「でも、傷みやすいんだろ?なんで痛んでないんだ?」
「カイ先生は鞄があるから持って来れたんだよ。」
「じゃあ、俺達も今日作った箱で持って来れる様になるんじゃ?」
「はっかだなぁ、あの箱は時間が早くなる、痛みやすくなる箱だぞ
痛みにくくするんだったら遅くしないと。」
「そうか!だったら、もっと大きな箱で遅くしたのなら沢山持って来れるね。」
「はぁー。どうやってそんな大きなものを運ぶんだよ。」
「そうか、むりかぁ。」
「むりむり。それこそ走空車でないと運べないよ。」
そんな子供の会話を聞いていた男がいた、カイと商人のサウルである。
「カイさん。実は私、作ってほしい物があるのですよ。」
「奇遇ですな。丁度、“カシオ”を取りに行こうかと考えていたのですよ。」




