魔導士は相談事を受ける
サーバル男爵はスコルナ伯爵から呼び出しを受けていた。
通常、伯爵から直接男爵へ呼び出しがかかる事はない。
男爵に伝えられる前に子爵を間に通して連絡をおこなう。
それが直接の呼び出しである。
「さて、一体何事だろうか?
我が領内に住む獣人が悪さをしたと言う苦情か?
それなら伯爵が呼び出す案件では無いなぁ。」
齢40半ばのハロルド・サーバルは首をひねった。
黒い髪に白い物が多くなり体力の衰えを感じ始めていたが、
“息子のウオルターが成人するまではまだ現役である”と心に決めていた。
とりたてて裕福でも貧乏でもないサーバル領。
この地で取れる珍しい物と言えば“カシオ”と言う、青く細長い三日月状の食べ物がある。
皮をむいて食べるのだが、少し酸味があり、ほのかに甘い。
特筆すべきは、“病気に対する抵抗が極僅かながら上がる“と言った特性があるが疎さの範囲らしい。
ただ、このカシオ、収穫から1週間で黒くなり中身はドロドロになる。
残念なことに日持ちしないのだ。
収穫できる地域もサーバル領とその周辺にしかなく一般にはあまり知られていない。
「前にスコルナ伯がカシオを輸出できないかと子爵づてに聞いてきたことがあったが、
今回もまたそんな類いじゃないのか・・・。」
冗談めかして呟くハロルドの予想は正しかったのだが、この時は知る由もなかった。
実家の兄に伯爵の災いがもたらされようとしている時、カイは工房で相談事を受けていた。
「で、ジョン少年。いったい何を知りたいのかな?」
ダニエル酒店の息子、ジョン少年は(少年にとっては一抱えもある)小さな樽を机の上に持ち上げた。
「これです。」
「これは・・・ふむ?」
カイは注意深く木の樽を観察する。
「香りは・・・ふむ、これは楢の木だね。
で、中に入っているのが・・・アルコールか!」
「はい、カイ先生に教えてもらった方法と道具で作った物です。」
「で、これは何故樽に入っているのかな?」
「僕の家で置いているお酒を樽に入れると匂いや味が混じって変な酒になることがあるのです。
先生のお酒、アルコールは違う匂いがしたので・・・」
「樽に入れて置くとどうなるかと?」
「はい。」
「それで結果は?」
「少し茶色く色が付いて丸くなった様に思えるのです。」
「それは一ヵ月で?それとも三ヵ月で?」
「徐々に、・・・だと思います。」
「ああ、そうか。このような調べ物をする場合は一定期間を決めて内容物を保存し比べるのだよ。」
「そうなのですか、知らなかった・・・」
少年は少し残念そうにそう言った。
「まだそこまで必要はないと思って言ってなかったからね。」
「でも・・・」
「いやいや、すでにそれが必要なほどであると言うのは優秀なことだよ。」
カイは少年をそう労わった。
そしてしばらく考えた後、
「ジョン君はこの先どうなるのか、このまま続けても良いのか知りたいと?」
「はい、先生。」
「先ほど言ったことに注意して一ヵ月ごとの変化を記録するのも一つだね。」
「一つ?」
「鞄の逆の方法を使うのだよ。」
カイはそう言うと新たな道具を作り始めるのであった。
 




