辺境伯の憂鬱
辺境伯の朝はそれほど早くない。
いつもは朝日が昇って、家人が仕事を始めてから起きだす。
だが今日は、日が昇る前に起きだしていた。
「辺境伯様、本日のお加減はいかがでしょうか?」
筆頭執事のガイストは銀のトレーに水差し、グラス、粉薬を持って現れた。
「う、うむ。イタタタタ。」
近頃、辺境伯は胃痛に悩まされていた。
それもある魔導士、今日面会予定の者が関係すると痛みが増すようだ。
辺境伯は急いで粉薬を飲み込む。
「ふー。何とか落ち着いてきた。」
辺境伯は薬を飲んで一息ついた。
「辺境伯様、本日の予定は魔導士のカイ殿との会見の予定です。」
「・・・会わねばならぬか・・・。」
会見の内容によっては胃痛の種が増えるかもしれないと辺境伯は考えていた。
「魔導士カイよ。この度のダンジョン討伐、走空車の開発、開水路の建設、ご苦労であった。」
辺境伯はいつもの貴賓室でカイを出迎えた。
「で、今回の報酬なのだが・・・」
「それについては、お願いがございます。」
「お願いと?申してみよ。」
「はい。開水路から水の一部を私の領内に引き入れる許可を頂きたいのです。」
「ふむ。相分かった、それ以外は何かあるか?」
「後は・・・そうですね。郊外の工房に壁がありません。
それを含む城壁の範囲の拡張をお願いします。」
「郊外の工房・・・走空車の組立工房だったな。
良かろう、城壁の範囲を拡張しよう。」
辺境伯が城壁の拡張を許可したのは理由が存在する。
走空車は辺境伯領の税収に多大な貢献をもたらしているからだ。
組立工房の安全性を高めるのは税収を高めるのと同じと言うわけである。
「しかし、走空車か・・・次もどんなものを作るのかね?」
(とんでもない物を作るんじゃないだろうな?)
「いえいえ、普通に計画していた走空車ですよ。」
(確か次は、超大型だったな。精霊石が問題だったが解消されたから製作できるな。)
繰り返すがこの二人に意思の疎通はない・
その後も細かい取り決めなどを決め、カイは退出した。
「ふー。カイ殿と話すと疲れるな、ガイスト。」
「左様でございますね。」
「あまり王宮を刺激しない物を作ってほしいが、こればかりはどうしようも無いか。」
「王宮ですか?」
「ああ、この間、王宮から召喚状が届いたのがあっただろう。」
「走空車を走らせて王宮に行った時ですね。」
「あの時は王から“ワシでさえ持っていない走空車で来るのか。“とネチネチ言われたよ。
思い出しただけでも胃が痛くなる。」
「それは災難で御座いました。」
だが、その胃痛がさらに悪化するとは辺境伯も予想はついていなかった。




