魔導士は作戦会議に参加する
「お、魔導士殿。良く来られた。」
到着したカイ達をドレッドが出迎えた。
「すみません。遅くなりました。」
「いやいや、あの作業を特急で行ったのだから仕方あるまい。」
カイ達とドレッドが攻略用のキャンプを連れ立って歩く。
(おい、ドレッドさんと一緒に歩いている男、あれはだれだ?)
(あれは噂の魔導士じゃないのか?)
(走空車を作った上、このダンジョンの攻略を企画したと言う?)
(見たところ、目つきの悪い男にしか見ないな。)
(どう見ても普通の男にしか見えんな。)
(名を残すような事をしていながら、それを感じさせない所が逆に恐ろしい。)
周りでこそこそ話される中、カイ達は中央にある大型のテントへ向かった。
攻略用のキャンプなので簡単な作りだが、入口は閉じられ中の様子はうかがえない。
「ドレッドさんがわざわざ出迎えに来るなんて、何か問題でも?」
「それなのだが・・・ともかく中で話そう」
テントに入ると五人の男女がテーブルをはさんで言い合っている。
「何だ!あの能力は!」
「報告では雷撃系呪文で目に見える負傷を負わせたとありましたが・・・」
「雷撃どころかどんな呪文でも傷一つつけられぬ。」
「防御力も高い上、再生も早い。これでは手の打ちようが無い。」
カイ達が中央テントに入った時、作戦会議は紛糾していた。
ダンジョンボスがあまりにも規格外の能力を持っている為、攻略法が見つからないのだ。
「能力、という事はダンジョンマスターの能力に問題が?」
「今の話を聞いていたと思うが、ダンジョンマスターの能力が高速再生と魔法無効だった。」
「その上、防御力も高いと。」
黙って頷くドレッド。
「・・・取り敢えず、ダンジョンの地図を見せてくれませんか?」
「おお、何か秘策でも?」
「今のところはまだ・・・地形やボス部屋についての情報が無いと何とも。」
「わかった。こちらへ、テーブルの上にあるのがボス部屋の物で他は・・・」
「他は関係ないだろう。それより対策だ!」
一人の戦士風の男が声を荒げる。
「いいえ、現状をしっかり把握する為にも情報の確認は必須です。
まして、対策が見つからない相手の場合はなおさらです。」
「後から来て何を言っている。
だいたい、ここはお前の様な魔導士が来るところじゃない。」
「ヘルメス、それまでにしておけ。」
ドレッドが間に割って入る。
「この人はリムスキレットの魔導士だ。」
「「「「「!!!」」」」」
「どうも、リムスキレット所属の魔導士、カイと言います。
以後、お見知りおきください。」
「あんたがあの走空車を・・・」
「ぱっと見には普通の魔導士に見えるのにねぇ。あ、わたしはブッチャーのギルドマスターのマグナリア。よろしくね。」
栗色の髪の妙齢の美女がカイに挨拶した。
皮鎧の上からでもスタイルが良いのが判る。
「レイ、サバイバーのマスターだ。」
金髪の男は簡単に自己紹介する。
黒鉄のフルプレートを着こんでおりかなりの重装備だ。
「ビートルスキンのマスター、ラズ。でこいつがスカイホークのマスターのビート。」
赤髪の美女と白髪の目にクマのある男はかるく会釈する。
両者ともローブを身に着けている所を見ると魔術師系なのだと考えられた。
「で、こいつがウォーロードのマスター、ヘルメスだ。」
「よろしく。」
ヘルメスはドレッドに紹介され、後ろめたそうに挨拶する。
カイに渡されたダンジョンの地図は30枚あった。
という事はこのダンジョンは30階層あるという事になる。
「見た所、このダンジョンにはあまり扉がありませんね。」
「ああ、その上、階段らしい階段は無くスロープになっている。上がるのは一苦労だ。」
「入って来た者を逃がさない為か?だが、道幅が広いな。」
「幅が広いから走空車でも大丈夫なのですよ。」
「これは?」
カイが目にしたのは、ボス部屋の見取り図だった。
見取り図には50m四方の巨大な部屋が描かれており、入口の反対側に出口が存在した。
その先は2m四方の小部屋になっている様だ。
「ここがダンジョンコアのある部屋か。」
そう言ってカイは2m四方の小部屋を呼び指す。
「ボス部屋に隠し扉があれば判りませんが、まず間違いなくそこにコアがあると思います。」
「魔導士カイ殿。どうすればダンジョンマスターを倒せるでしょうか?」
カイはしばらく考えると
「倒す必要はないと思います。」
「「「「???」」」」
カイ以外の全員に?の文字が浮かぶ。
「倒さなくても、倒すことが出来るのです。」
そのカイの言葉にますます疑問を深めるのであった。




