魔導士は汚水流出を知る
カイは100人の魔導士を四人一組、25班に分け200mごとに配置させた。
班によって進捗状況は変わるが、これだけの距離があればそうそうかち合う事は無いとの考えだ。
そして、100人からなる魔法使いの集団を使った水路の作成はこの世界初といえた。
迂回用の水路とはいえ、合計20kmはある。
カイの指導した方法で開水路は作られているが、間に合うかは微妙なところだった。
「カイよ、間に合うかにゃ?」
「間に合わせる為にも工房をフル稼働させます。」
カイは開水路の作業にあたっている魔法使いには精神回復薬を多数配っていた。
精神力が少なくなって呪文が使えなくなる事を防ぐ為である。
今夜は工房に戻り、減った精神回復薬を補充する必要があった。
そして、ダンジョン攻略の為には回復薬の増産も不可欠だろう。
「何とか数を揃えなくてはな・・・」
カイは人知れずそう呟くのだった。
一方その頃。
「ギルド長!あれを!」
「!ゴブリンの集落?くそっ!オークの集落か!!」
ドレッドは眼前に広がる集落を見て呻いた。
ゴブリンよりも上位のオークが集落を作っている。
これはダンジョンの階層が20階層より更に深いことを示していた。
「不味いですね。これは大暴走が起こる前触れですね。」
「ああ、そうだな。あのカイと言う魔導士には恐れ入るよ。」
もし雇われたのが十人程度であったなら大暴走を防ぐことも、
起きた場合に対処することも出来なかっただろう。
だが今回はSランクギルドの冒険者が200人も参加し大暴走前の状態である。
これだけの人数が存在すれば、防ぐことが簡単だ。
たとえ大暴走であっても対処できる人数なのだ。
「よし、オークなら食肉ギルドの連中が慣れているだろう。
奴らに頼むか。」
「オークか・・・肉をドロップしてくれればいいのですけどね。」
「ダンジョンマスターが巨人だからその可能性は高い。そうなればトンカツ祭りだな。」
といった冗談を交わす。
「・・・ん?」
「どうしました?ギルド長。何か気になる事でも?」
「いや、オークの村に川がある様に見えるのと瘴気の沼の大きさが・・・」
「確かにミストで受けた報告よりも大きいですね。」
「調査班を出すか、ヴァンガード!目のいい奴を見繕って調査してきてくれ。」
ヴァンガードは一礼をすると調査に向かった。
「杞憂であってほしいが・・・。」
だがそんな願いは古来外れるものと決まっている。
調査から帰ってきたヴァンガードが真っ先に話したことは
「ドレッドさん!大変だ!沼の一部が流れ出ている!!」
その凶報は穀倉地帯に深刻な被害を与える物だった。
すぐさま工房で回復薬を調合するカイの元に伝えられ、
今後の対策と今の防護策の変更が考えられていたれた。
「流入量はどのくらいの量なんだ?」
「今のところ、小川程度の量ですが。その内川の様になるかと思われます。」
「困ったな。早く輝く星の森から出る水を沼に流れ込まないように出来ればいいのだが・・・。」
カイは顔を曇らせる。
「・・・計画に変更はない・・・」
「ですがカイさん。このままでは穀倉地帯が汚染される一方なんですよ。」
一人の魔法使いがカイに詰め寄る。
「だが、現状では一時的な対策しか打てないからね。
一時的な対策でも時間を費やした分、開水路の作成が延びる。
時間が延びた分、流れ込む量が増えているかもしれない。
結局は事態を先延ばしにするだけで何の対策にもならないどころか悪化する事になる。」
「我々に出来ることは地道に水路を作るしかないのだ。」
と、カイは続けて静かに言った。
「徹夜で。」




