魔導士は開水路をつくる
王都を出発して二日後の朝、カイ達は辺境の町リモーデへ到着した。
ドレッド達のダンジョン攻略組は隣町のミストで食料や情報などを入手した後、
ダンジョン近くの森に攻略キャンプを張る予定だ。
カイ達の乗る大型走空車はダンジョン攻略と別の目的でリモーデに帰って来たのだった。
「カイ、この後、どうする?」
ルリエルはカイに尋ねた。
「辺境伯の許可を取ろう。事後承諾だと何か問題があると対処が大変だ。」
と言って、カイは走空車から降りた。
「班分けをするなら走空車用工房横の空き地が良いと思う。」
「ん、判った。魔法使い、分けておく。」
ルリエルはリモーデの郊外へ走空車を動かした。
そこで目的に合わせて魔法使いを編成するようだ。
「さて、辺境伯に許可を取らないとな。」
カイが辺境伯の屋敷を訪れると辺境伯自身が正面玄関で出迎えてくれた。
「おお、魔導士カイ殿、ダンジョン攻略にお忙しいとお聞きしたが本日は何用で?」
辺境伯は両手を広げて出迎える。
カイは辺境伯と軽く挨拶を交わすと本題を切り出した。
「辺境伯、今日お伺いしたのは輝く星の森についての事です。」
「む、ダンジョン攻略と関係があることですな。
ここでは何ですので客間へどうぞ。」
と言うと辺境伯は執事を伴って客間へ案内した。
客間はこれまでの謁見の間と違い数々の調度品が置かれていた。
加えて床には毛足の長い絨毯が敷かれていた。
「どうぞお掛け下さい。」
辺境伯はカイに椅子をすすめる。
「それより辺境伯、この地図をご覧ください。」
カイはそう言うと客間のテーブルの上に一枚の地図を広げた。
広げた地図はリモーデとミスト周辺の地図だった。
リモーデと輝く星の森、森から流れ出る川、ミストの町、穀倉地帯の入り口、西の荒野など詳しく書かれている。
その中でも森から出る川の何か所かに×印がつけられ、そのすぐ横から破線が書かれていた。
荒野の一部にも破線は描かれていた。
「魔導士殿、これはいったい?」
「これは輝く星の森から出る川の迂回路とせき止める箇所を描いたものです。」
「迂回路?」
「はい。今回のダンジョンの出現により、森からの水が汚染される可能性が高いのです。」
「!それは大変じゃないか。穀倉地帯に大打撃を受けるぞ。」
「そうならないよう。迂回路を作るのが今回の計画です。」
「迂回路を作るのは問題ないが人がいくらいても足りないぞ?」
「大丈夫です。その為に必要な人数を王都で確保してきました。」
カイは胸を張って答えた。
「うむむ、そこまで言われるのであれば許可しよう。
魔導士殿には何か考えがある様だ。」
「ありがとうございます。」
「では時間も無いことですし、直ぐに取りかかります。」
そう言うとカイは辺境伯の屋敷を後にした。
「ルリエル、班分けは終わったかい?」
カイは走空車用の工房横へ到着するなりルリエルへ状況を確認する。
「編成、終わり、指示待ち。」
編成を確認してカイは指示を出す。
だがどうも作業を掴めないらしく、何人かから声が上がる。
「すみません。よくわからないので実践をお願いします。」
「わかりました。では早速現場でやってみましょう。」
カイはリモーデの水路近くに来ると説明を始めた。
「まず泥化の呪文で幅7m長さ7mの範囲で泥化してください。」
カイが呪文を唱えると地面の一部が泥化する。
対象の足元に発生させることで移動を阻害する呪文で、低レベルの為習得している者は多い。
「次に落とし穴の呪文を使える人が幅5m深さ2m長さ5mを基準に泥化した地面を下げてください。」
地面の一部が押し下げられる。
泥化の呪文と同じく妨害呪文の一つである。
簡易の罠呪文としても使われるのだが使い勝手は今一つである為、習得者は少ない。
「火炎呪文を使える人が下げた地面の側面に火炎呪文を撃ち込んでください。
出来れば範囲呪文が良いのですが、単体呪文しかない場合はまんべんなく打ち込んでください。」
カイは火炎球の呪文を唱えた。
火炎球は一般的な火系の範囲呪文で習得している者は多い。
火炎球がピットの内側の泥を焼き固める。
濛々と上がる蒸気が無くなった後には、焼き固められた地面があった。
「この様に両側、底の三辺を焼き固めたら次に移ります。
くれぐれも進行方向は焼き固めないでください。」
三つの呪文を使い水路を作る。
カイが王都で魔術師を集めたのはこの為だったのである。




