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魔導士は辺境に到着し歓迎をうける

 カイ達は次の目的地、ミストの町までルリエルやサウル達と共に移動することになった。

 盗賊に襲われた地点からミストの町まで半日以上ある。貿易商のアベルは一度助けた以上、最後まで面倒を見るつもりの様だ。


 馬車が二台になった為、護衛の配置を変更する。ディンカとスタンの二騎を前にフロームの1騎を最後尾に。

 前の馬車にはアベル、ラフィ、サウル、ミアの四人が、後ろの馬車にはカイとルリエルの他、捕縛した盗賊を乗せている。


 移動する馬車の上ではカイとルリエルが話をしていた。

 ルリエルは仲間が死んだ不安を忘れるかのようにカイと話をする。カイの方にも辺境の事情や所属ギルドの事を知りたいと言う理由があった。

 ここまで一緒に旅をしたディンカ達にある程度は聞いているが、可憐なエルフの少女(の様に見える)と話す方が“話が弾む”と言う物である。


{これは驚いた。ルリエルさんはギルド“リムスキレット”に所属しているのか!}


{今回は急遽商人の護衛に就きました。

普段は近くの森、シラギリスで採集をしています。}


 カイとルリエルはミストの町に着くまで様々な事を話していた。


 ミストへ着くと一行は捕縛した盗賊を引き渡し賞金を受け取った。


 盗賊は生きている者一人当たり50GP(金貨)で合計150GP、死体(盗賊の持ち物が討伐の証拠になる)は一人当たり5GPで35GPの合計185GPだった。

 それを参加した冒険者、五人(カイ、ディンカ、フローム、スタン、ルリエル)で山分けする。冒険者にしてみればちょっとしたボーナスだ。

 ルリエルは助けられたという事もあって辞退しようとしたが、


「賞金が185GPなので四人では割り切れない」


と理由を付けて無理やり渡した。彼女が可憐な少女(の様に見える)ことも要因の一つだろう。


 ミストの町から辺境のリモーデまで約1週間。人員の配置を元に戻し旅を続けていた。

 カイはルリエルとの会話に名残惜しさを感じたが、元の場所である貿易商のアベルの馬車に移った。

 ルリエルの馬車にはサウルとミアの二人が乗り込み旅を続ける。


 ミストからリモーデの間には途中に町や村はないため野宿をする。

 カイは他の冒険者たちが食事の用意を行っている間、薬草の処理の準備を始めた。背負っているバックパックから錬金術用のテーブルと器具、ガラス瓶を取り出す。


「カイさんのバックは空間収納エクストラストレージなのか!?」


 その様子を見ていた冒険者のスタンが驚く。


 魔導士であるカイからすると空間収納付き鞄は持っていることが当然なのだが、普通の冒険者からすると珍しい物なのだ。


「カイさん。そのバックはいったいどこで手に入れたんだ?」


「これですか。これは自分で作りました。」


「ええ?作った!?」


 スタンは大きな声を上げ驚いた。


「魔導士への転職条件に魔術師としての能力の他に錬金術師の能力も見るのですよ。その証明に空間収納付き鞄を製作しました。」


「へ、へぇ……すごいな。でも、魔導士なら当たり前なのか……」


 スタンは空間収納付き鞄をしばらく見つめると


「じ、じゃあ、空間収納付き鞄を作ってもらえるのか?」


 そう言われてカイはしばらく考えると


「材料と手数料さえもらえれば。」


「材料?」


 カイはサラサラと紙に材料を記入するとスタンに渡す。


「これが材料か・・・なん・・・だと?!」


 紙には数々の高価な材料、中にはスタンが聞いたことも無い物も含まれていた。

 実際、それらを全て買い集めると材料代だけで10,000GPは下らないだろう。更に製作手数料の約1割が加わる。

 スタンの様な中級冒険者には無理な金額であった。


「へそくりでは足りない。材料が手に入るまでお預けだな・・・。」


 スタンはそう呟くと材料が書かれた紙を懐にしまい込む。

 作ってもらう方が市販の空間収納付き鞄を買うより安上がりだからだ。


(盗賊との戦闘を見ていたが、彼ほどの腕ならば遠からず材料を集めるだろう。)


 カイはそう思うのであった。


 その後の辺境への旅は大きな問題はなく順調であった。日も高くなった昼ごろに辺境の町“リモーデ”が見えてきた。

 辺境らしく町を囲む壁は木材で出来ており、王都の石壁を見慣れたカイにとって新鮮な光景に写った。

 その町の壁に横断幕が飾られ、何人かの人がその前に集まっている。


 カイは町が近くなったので使い魔を元に戻したことを残念に思うのだが、あまり問題はないと考えていた。


 その横断幕を見るまでは・・・。



-歓迎、魔導士 カイ 様-



 カイは大勢の人々に出迎えられるとは思っていなかった。


 当然である。


 王都のSランクギルドをクビになったばかりか、問題のある人物として名前を広められている。

 辺境とは言え、領主に王都での話が入っていないはずはないと考えていた。カイにとって何かの冗談か罠か判別がつかない。


(さて、一体どうしたことか?)


 カイが難しい顔をしていると貿易商のアベルが話しかけてくる。


「カイさん。難しい顔をしてどうしたのです?」


「いや、何。あの横断幕がね・・・」


 カイは大きくたなびく横断幕を指さす。


「確かに、すごい歓迎ですね。それに予想より人が多い。」


「予想より多い?」


「ええ、私はせいぜい領主の代理人と数人の供が出迎えると思っていたのですが、これは予想以上です。」


「領主の代理人?何故?私は単なる魔導士ですよ?」


「違いますよ、カイさん。魔導士なのですよ。」


「???」


「カイさん。辺境では魔導士どころか、魔術師、錬金術師の数は少ないことはご存知でしょう。」


「ええ」


「その魔術師や錬金術師も良い腕を持っている者は少ないのです。」


 少しでも腕の良い魔術師や錬金術師の多くは王都に行く。最先端の魔術や錬金術が研究されているのが王都であり、王都にいなければ最先端の研究から取り残されてしまう。

 その事が王都に優秀な人材が集中させる。


「だから、優秀な魔術師であり錬金術師である魔導士は歓迎されるのですよ。」


 アベルは話を続ける。


「それとカイさん。リモーデに魔導士は何人いると思いますか?」


「辺境とは言え、それなりに大きい街なのだから一人ぐらいは・・・」


 アベルは首を振りながら答える。


「いいえ、一人もいません。カイさん、あなたがリモーデに来た初めての魔導士なのです。」


 “自分が考えるよりも辺境いなかに来ている”カイはそう思っていた。


 カイの不安な顔を払拭する為かアベルは


「大丈夫。カイさんなら上手くやっていけますよ。私が保証します。」


と、気休めにも似た言葉を言った。


「そうそう、戦闘での付与魔術は素晴らしかった。あれほどスムーズに戦闘に移れたのは初めてだ。」


 二人の話を聞いていたのか、ディンカがカイの付与魔術を褒める。


 そんな話をしながら彼らを載せた馬車は町の門に近づいてゆく。

 集まった人々は皮鎧や金属鎧の戦士系だけでなく、緋色の衣を纏う聖職者、金糸銀糸の刺繍の入った服装の貴族らしいといかにも身分の高そうな人々も見える。


 その身分の高そうな人々の中から黒服を着た男が歩み出た。


 カイに対し滑らかにお辞儀をする。


「ようこそ。リモーデへ。魔導士 カイ殿。私はファウンテン辺境伯に仕えるウォルトと言うものです。」


 辺境伯が下僕を使わすほどの事になっている。

 この後、カイは辺境伯と面会することが必要になってしまった。

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