魔導士は王都へ向かう
リモーデから王都まで馬車で1ヶ月はかかる。
距離にすると約1000km。
馬を町や村で交代しながら進めばもう少し早く着く。
これ程までに時間が掛かるのは、馬と言う休ませる必要がある動物を使う事と
川沿いや森の中の曲がりくねった道を進まなければならない為だ。
だが走空車は王都まで直線で進むことが出来る。
そして精霊石を使う為、馬のように休む事は無い。
速度も馬車の速度とは比べ物にならない速度を出すことが出来る。
「王都まで一直線で、高さ調整のレバーは30mにセット。」
カイがディンカやスタンに指示を出す。
カイの乗る小型走空車にはルリエルとギルド長のヴァニアが、
ディンカの乗る小型走空車にはスタンが同乗していた。
ルリエルとスタンは交代要員として、ヴァニアは王都での交渉の為に乗っている。
「フィリアは各ギルドとの連絡を頼むにゃ。
バハルとニライはダンジョンの偵察を頼むにゃ、でも入ってはダメにゃ。」
「「「わかりました。」」」
三人は同時に返事をする。
「上手くいけば、一週間後に戻ってくる。」
「はい、気をつけていってきてください。」
フィリアが答える。
「心配ない。私、いる。」
とルリエルが返す。
「わかった。」
カイが操縦席の横に取り付けられたレバーをゆっくり押すと走空車は徐々にその高度を増していった。
「カイ!王都の方向は?」
窓越しにディンカが問いかける。
「南南西だ!」
カイは二本のレバーを前に倒し、最高速で走空車を動かすのだった。
途中、2時間ごとに交代し、王都に着いたのは日も暮れて夜の帳が下りていた時間だった。
「うみゃ。遅かったにゃ。王都の門がしまったにゃ。」
「流石に門を飛び越して侵入するのはまずいよな。」
とスタンが訊ねる。
「当然だ。矢を射かけられても知らないぞ。」
王都への不法侵入は重罪である。
殺されても文句は言えない。
「仕方ないにゃ。今夜は門の近くに止めて休むにゃ。」
カイ達は小型走空車の高度を下げ王都の門に近づけて行く。
その時、王都の門から警備兵が五人ほど飛び出してきた。
「止まれ!それ以上近づくな!」
「面妖な塊だ。」
「全員槍を構えろ!」
警備兵が槍を構えるのを見てカイ達は小型走空車を停止させた。
停止を見計らってヴァニアが窓から顔を出し
「すまないにゃ。門を通りたいのだけどダメかにゃ?」
「な?中に人がいるのか。これは魔道具か!!」
「そうにゃ。馬無しで走る魔道具にゃ。」
と説明を始めた。
1時間ほど交渉の末、王都の門の傍で停車してよいことになった。
「流石はギルド長と言ったところですね。」
カイがそう言うとヴァニアは
「まぁ、こんな時でないとギルド長の権限は使えないにゃ。」
ヴァニアがギルド長であると言う事で一定の信頼は得たようだ。
翌日、カイ達は小型走空車を取り囲む人々によって起こされた。
王都の門の横に見たことの無い珍しい物が止まっている為だ。
その中には見知った顔もいた。
「・・・えっと、たしか・・・ダンケ?」
「ダンケルクだ、ダンケルク。」
「これ、新型だよね?ついに言ってたやつが出来たのか?」
ダンケルクはカイに詰め寄り興奮を隠せないでいる。
「え、ええ。小型走空車といって人なら六人載せることが出来ます。」
「向こうの戦士っぽい人は魔法が使えるようには見えなかったけど、これはやっぱり・・・」
ダンケルクはディンカやスタンを指さしながら訊ねる。
「はい、お考えの通り。魔法使いでなくとも動かせます。」
「ヒャッホーゥ!すげえ!!で、幾らするんだこいつは?」
「騒がしいぞ、ダンケルク。」
「あ、隊・じゃないギルド長。」
フェールズのギルド長ドレッドが見覚えのある馬車から降りゆっくりと近づいて来る。
どうやら大修道院から今戻ってきたようだ。
「ふー。カイ君、作ってしまったのだね。」
「ええ、ですが今はそんなことを言っている場合ではありません。」
「そんな事?このFカートを実用化する事よりもか?」
「はい。詳しくはリムスキレットのギルド長、ヴァニア氏から聞いていただきたい。」
ヴァニアはドレッドに向かい
「お初にお目にかかります。
私はリムスキレットのギルド長を務めるヴァニア・ベルトーニと言う者です。」
「これはご丁寧に。
私はギルド、フェールズのギルド長を務めさせていただくドレッド・ノートと言う者です。
以後、お見知りおきください。」
「早速ですが。ドレッド殿。貴殿のギルドおよびSランクギルドに緊急依頼をお願いしたい。」
「緊急依頼ですか?それはまた大変なことが?」
「はい。大型ダンジョンの討伐を依頼します。」




