魔導士は緊急事態に対処する
リモーデの西の荒野に拡張された工房に40台のFカートと20台の大型Fカートが並んでいた。
カイは当初、自らの工房近くで組み立てていたが、流石に大型を組み立てるにあたって場所が手狭になった。
辺境伯に相談した所、リモーデの郊外に組み立て工房を作ることとなった。
工房と言っても簡単なテントで屋根を作っただけの物であるが、組み立て作業に問題は無かった。
出来上がったFカートの前に製作にかかわったギルドのメンバー、
フィリア、ルリエル、ディンカ、スタン、ガミラ、グメル、バハル、ニライ、そしてギルド長のヴァニアが祝いに集まっていた。
大きなテーブルが複数出され、その上に飲み物や料理が置かれていた。
「こうして沢山のFカートが並ぶと静観壮観ですね。」
「我々の魂、結晶、当然。」
フィリアとルリエルが並んでいるFカート見ながらそう感想を述べた。
「とは言ったものの、予定の台数に届いていないからなぁ・・・」
「カイよ。大体100台と言うのが無理な相談なんじゃ。」
「うんむ、うんむ」
ガミラとグメルの兄弟もいつもの酒を飲みながら頷き答える。
「しかし、Fカートと言うのは呼びにくいにゃ。
他の名前は無いのかにゃ?」
ヴァニアが新たな名前を付けることを提案してくる。
「確かに呼びにくいな。どんな名前が良い?」
「うむむ。どんなと言われると困るにゃ。」
そんな時、ルリエルが
「空、走る、グエルノール」
「空を走る・・・略して走空車というところか。」
「グエル・・・良いんじゃないかにゃ。」
そんな話をしている時にギルドからの連絡員が駆け込んで来た。
「ギルド長!大変です!!これを!!」
渡された用紙を見たヴァニア叫んだ。
「?!これはギルド間で使う緊急連絡の用紙にゃ!」
一堂に緊張が走る。
「ギルド長、中に何と?」
連絡用紙を見たヴァニアは
「大変だにゃ!“デッドリーロール”がダンジョン攻略に失敗したにゃ!!」
「なんだって!“デッドリーロール”といえばミストの町のAランクギルドじゃないか!」
それを聞いたディンカが驚きの声を上げた。
「ダンジョンボス相手にほとんど何もできなかったみたいにゃ。
彼らが攻略失敗したダンジョン・・・これは一大事だにゃ!!」
「どうしたのだ?ギルド長?」
カイが慌てるギルド長に問いかけた。
「ダンジョンの出現場所が輝く星の森の南側にゃ。」
「「「「なんだってー!」」」」
輝く星の森から何本かの川が流れ出ていた。
その一つは森の南側から出て穀倉地帯へ繋がっている。
ダンジョンの汚染は穀倉地帯の汚染につながるのだ。
「早くダンジョンを潰さないと穀倉地帯が!!」
「だが王都まで一月はかかるぞ、往復で二ヵ月だ。」
「二月・・・そんなに長くダンジョンを放置すれば森は全てダメになにゃ。」
「穀倉地帯の危機なんだ、王国軍は?」
「王国軍を動かす場合、もっと時間が掛かる。
我が国は職業騎士が少ないからな。」
「カイはいかが考えられるにゃ?」
ヴァニアがカイに尋ねた。
「王国軍は招集するのに時間が掛かるから無理だな。
だとしたら、王都のSランクギルドに頼むしかないだろう。
ただそれにはそれなりの報酬が必要だ。」
「穀倉地帯の危機なのだから動いてもいいのでは?」
「彼らはプロだ。報酬無しで動く事は無い。」
「カイ、報酬、ここにある」
ルリエルが精霊石の報酬をテーブルに置く。
「いいのか?」
「森の一大事、問題ない。」
「水臭いな。うちらも援助するよ。」
バハルやニライも報酬をテーブルに置いた。
「よし、後は時間との勝負だ。王都へ行ってSランクギルドの連中を連れてくる!」
「で、でも往復で二か月もかかるのよ?どうやって?」
フィリアが心配そうにたずねる。
「心配ない。俺達にはこいつとこいつがある。」
カイは出来上がったグエルと自らの持つ鞄を指さした。
ヴァニア 「他に名前は無いかにゃ?」
スタン 「こんなのはどうだ?
乗合馬車をオムニバスと呼ぶのと、空を浮かぶことから空と言う意味のエア、これを合わせてエアバ・・・」
ヴァニア 「却下にゃ。」
スタン 「なぜだあっ!」
ヴァニア 「それを言うと何か危険な臭いがするにゃ。商標とか・・・」




