魔導士は新型機構を開発する
似たような話になっていたので、前の話と統合しました。
ギルドから選抜された十人を見送った後、カイはFカートの改良に着手した。
彼が最初に手を付けたのは浮遊の魔法陣であった。
試作機を動かしていて分かった事だが、曲がる度に横転しそうになるのである。
これは曲がる場合、車体が傾くのに対し魔法陣が地面から一定の距離で浮こうとするためだ。
その為、車体のバランスが崩れ横転しそうになる。
突風呪文での操作の場合、突風の方向を変えることにより横転を防いだ。
次に作る予定のFカートは移動の魔法陣を組み込んだもので、呪文が使えなくても動かせるものだ。
三日後、カイは新しい機構を備えたFカートを前にディンカやスタンに説明を始めた。
「今回のFカートは試作機と違い操縦用のレバーは二つある。」
Fカートの一番前の席、いわゆる操縦席を見ると床から伸びる長いレバーが二つ付いていた。
二つのレバーは操縦席前にあり、座席を中心にやや右側とやや左側についている。
「確かに二つあるな。前とどう違うんだ?」
「取り敢えず説明をするから乗ってくれ。」
カイは二人に説明する為に乗車を促した。
二人が乗り込むのを確認すると左右のレバーを掴み説明を始めた。
「操縦方法だが、前進する場合は二本のレバーを前に倒す。」
を二本のレバーを軽く前に倒すとゆっくり動き始めた。
その動きを感じとったディンカが
「お?前と違ってゆっくり発進するんだな。」
「速度を上げる場合は、更にレバーを倒す。」
二本のレバーを少し前に倒すと速度が上がった。
「もっと倒せばもっと早く加速する。」
「最初に大きく動かせば?」
「さっきよりも早く加速する。」
「さて、話を戻そう。
止まる場合だが、二本のレバーを引くと止まることが出来る。」
カイは軽くレバーを引いた。
Fカートはゆっくり速度を落とし停止した。
「更に引くと後ろ向きの力が大きくなり、後ろに進む。」
更にレバーを引いてFカートを後進させる。
「次に曲がる場合だが、二本のレバーの片方を元の位置に戻すと・・・」
カイは二本のレバーを前に倒しFカートを前進させると、右のレバーを元に戻した。
するとFカートは右に曲がり始めた。
「で、反対側に曲がる場合は今の逆。」
右のレバーを前に倒し左のレバーを元の位置に戻すと左に曲がった。
「そして今回新たな動きが加わる。」
そう言うとカイは右のレバーを前に、左のレバーを後ろに引いた。
Fカートはその場で左回転しだした。
「すげえ!こんな面白い動きが出来るのか!!」
スタンは興奮を隠せないでいる。
「更に、このレバーを横方向に倒すと・・・。」
二本のレバーを右に倒すと右に、左に倒すと左に水平移動した。
それを見ていたディンカは
「すごいな、浮遊と強風の魔法陣でこんなことが出来る様になるのか・・・。」
その言葉に対してカイは
「いや、今回は強風の魔法陣は使っていない。」
と言った。
「浮遊だけで可能なのか?あれは浮くための物だったんじゃ?」
「浮遊の魔法陣は実はいくつかの魔法陣の組み合わせなんだ。」
浮遊魔法陣に必要な要素は上向きの力と一定の高さに制御する方法の二つである。
上向きの力は単純で、一定方向へ力を加える様にすればよい。
高さの制御には今の高さを測定する魔法陣と高さにより上向きの力に強弱をつける魔法陣が必要になる。
カイはその内の一定方向へ力を加える魔法陣を単独で使用することでカートの動力を得た。
さらにその魔法陣を複数使うことで今回のような複雑な動きを可能にしたのであった。
Fカートの横転も浮遊の魔法陣を偶数個、斜めに付けることで防いだ。
カイが工房に戻るとアインヴィルへ行った連中が戻って来ていた。
ミスリルとオリハルコンの原石が手に入った。
これらの原石と鉄鉱石を混ぜて、Fカート用の鋼材を作るのだ。
ギルドの連中が鉱石を一通り下ろし終えると
「そうだカイ、鉱山主がこれをおまけに付けてくれたにゃ。」
と言ってヴァニアが拳ぐらいの量の鉱石を鞄から取り出した。
「いっぱい買ってくれたおまけだと言っていたにゃ。」
「これはアダマスか。」
「アダマスは少しの量で材料の強度を上げることができる。
良い鋼材が出来るぞ。」
カイがそう言うと、スタンは
「で、一体何台作る予定なんだ?」
「そうだな。王宮に徴収されるのを防ぐぐらい・・・100台ぐらいか?」
カイはその言葉通り、100台を作る為の生産体制に入るのだが、
その事で休日を全て返上することになるとは想像すらしていなかった。




