魔導士は攻城戦を手伝う
到着したカイを白銀の鎧を着けた男が出迎えた。
髪の毛はすっかり白くなっているが鳶色の眼光は衰えていない。
フェールズのギルド長、ドレッドである。
ドレッドの姿を見たダンケルクは馬の無い馬車から降りるなり
「隊、じゃなかった、ギルド長、こいつすげえんだぜ。」
「馬の無い馬車か・・・これは?」
「ああ、なんて言ったかな?」
「Fカートとでもしておきますか・・・」
カイはカートから降りるなりそう言った。
「君が魔導士のカイ君か。来てくれたという事は、攻城戦へ協力してくれるのだね?」
「はい。微力ながら協力させていただきます。」
「うむ、それはそうと。これは君が?」
ドレッドはFカートを指さす。
「ええ、試作品でありますが、テストを兼ねて運用してみました。」
「で、ギルド長、こいつ速いのなんのって!!」
ダンケルクはFカートがすっかり気に入ったようだ。
「ああ、でもこれがなぁ。自分で動かせればもっと・・・」
「誰でも動かせるのではないのか?」
「今の所、魔法を使える者が必要になります。
いずれそれも解決するつもりですが、精霊石の消費が大きいのが課題ですね。」
「ふむ、で今回の攻城戦でこれを使うのかな?」
ドレッドはFカートが浮いているのに注目したようだった。
「いえ。Fカートは地面からある一定以上の高さを浮くように設定している為、攻城戦には使えません。」
「では、どの様な方法を?」
「それは・・・・・」
その1時間後、カイは城の前に来ていた。
城へ向かう細長い一本道の端から使い魔を飛ばし、城の周りの様子を窺う。
「どうだね?できそうか?」
「ええ、おあつらえ向きに物見の塔の下が岩山ですね。
では、ちょっと行ってきます。」
カイはそう言うと呪文を唱えた。
「飛行」
「上位透明化」
透明化したカイは盗賊たちに見つかることなく物見の塔の下までたどり着いた。
(アーチ状にして、耐性を持たせるか・・・)
カイは塔の下の岩山部分に手を当てると
「石壁」
呪文と共に、渓谷を橋渡しする石橋が出現する。
カイは石壁を水平に出現させ、形を操作した。
手を降れた岩山部分は大きく抉られている。
石壁は石壁を作り出すうえで同じ量の石材を必要とする。
カイは物見の塔の下の岩山部分を石壁の石材としたのだ。
大きく抉られた穴の中央に一本だけ柱らしいものが立っていた。
その柱も上の荷重に耐えかねているのか所々にひびが入り始めている。
(急いで離脱しないと、巻き込まれるな。)
上位透明化のおかげで呪文を行使しても透明化が解除されないのが幸いした。
カイは狙われることなくその場を離脱し、ドレッドたちの元へ帰還することが出来た。
それと同時に
ズドドドドドドドド
轟音と共に、物見の塔の一つが崩れ去った。
物見の塔は岩山に空いた穴を埋める形になり、丁度そこから侵入できそうである。
「な、なんと!!」
「すげえ、あっという間に物見の塔が落ちた・・・。」
「普通の塔は基礎部分がもっと深くまであるのでなかなか崩れないのですが」
カイは姿を現すと同時に説明を始めた。
「岩山の上にただ置かれている構造物の場合、
基礎の部分を取ればああなるのは自明の理なのです。」
「よし、では次は我々の番だな。盗賊たちを殲滅するぞ!」
「「「「おお!!」」」」
盗賊たちのアジトはカイが到着してわずか一時間足らずで壊滅したのであった。




