魔導士は指名依頼を受ける
盗賊のアジトからリモーデまで馬車で二日かかる。
もっともそれは街道を使った場合の話である。
街道は輝く星の森の中心部を迂回するために二日にかかる。
だが、直線距離ならばリモーデまでは一日で済む。
そして人族は動物たちと違って丸一日活動することが出来る。
ギルド長のドレッドの命によりダンケルクは輝く星の森の中を走っていた。
戦士であり遊撃士でもあるダンケルクは白銀の鎧を物ともせず、方向を間違えることなく森の中を走る。
ギルドにフェールズからの指名依頼が届いたのは盗賊のアジトを発見して2日後の朝の事だった。
依頼は即座に指名された人物、カイが招集された。
「依頼内容は“遺跡の城の攻略”でしたか?ええっと?」
「ダンケルク、だ。」
弓を持った白銀の騎士はそう答えた。
一昼夜走っていたにもかかわらず、疲れた様子が見えない。
「俺達のボスが言うにはずいぶん昔の城らしい。
そこを“盗賊たちが根城にしている”という事だ。」
「お見受けした所、ずいぶん実力があるように思えるのですが、それでも無理なのでしょうか?」
「城に入ろうにも四方が断崖絶壁に囲まれている。
城へのつり橋も上げられてしまっては手の出しようが無い。
その上、四隅の見張り塔には投石機が置かれて近づきにくい状態だ。」
「断崖絶壁に渡る手段が無くて投石機ですか・・・」
「あんたならどうするんだ?
かの魔導士の様にドラゴンでも呼ぶのか?」
「宮廷の筆頭魔導士と一緒にしないでください。
そうですね、橋を架ける事と塔を一つ落とすのは出来ると思います。」
「という事はこの依頼を?」
「受けさせてもらいます。」
カイはダンケルクに対してそうはっきり請け合った。
「やはり、受けるかにゃ。用意はしてあるにゃ。」
彼らの会話を横で聞いていたギルド長のヴァニアが前もって手を回していたようだ。
「今回は例のアレで行く様にしているにゃ。」
ギルド長の言う例のアレとは、浮遊の魔法陣を刻んだ馬車である。
馬車と違い馬がいない。
箱型の奇妙な物にしか見えなかった。
「これなら、ルリエルと交代で暴風の呪文を使えば明日朝までに着くにゃ。」
見ると箱の御者台にルリエルが座り、何時でも出かけられる様に準備をしている。
王都で珍しい魔道具を多く見ているダンケルクでもこの様な奇妙な乗り物は見たことが無かった。
「馬がいない?これはどうやって動かすのだ?」
「浮遊の魔法陣で浮かせて、暴風で押すんだ。」
「ふーん・・・で、速いのか?」
ルリエルが
「速さ、自分、確かめる。」
カイやダンケルクにすぐ乗る様に促す。
ルリエルはカイとダンケルクが載るや否や猛スピードで馬の無い馬車を走らせた。
翌日の朝、カイは盗賊のアジトである古代の城跡に到着したのであった。




