盗賊の敗走
盗賊たちの襲撃は夜中、馬車の連中が寝静まった時に行われた。
焚火の周りに見張りが二人立ちその他はテントの中で休んでいる様だ。
馬車は現金輸送用の為か中で眠るのに適していないのだろう。
首領のカールが合図と共に、一斉に矢が放たれた。
数十本の矢が焚火にあたっている見張りに突き刺さる。
そして雪崩を打つように盗賊たちは襲い掛かって来た。
だがそんな盗賊たちの行動は全て読まれていた。
テントを斬り払い白銀の鎧に身を固めた冒険者の一団が出てきたのだ。
-盗賊たちが襲い掛かる数刻前、テントの中-
「ヴァンガード、奴らの様子は?」
「この野営地の周りを包囲していますね。そろそろ襲ってきそうですよ。」
「隊長、奴らのどうやって逃がしますか?」
「隊長じゃねえ。ギルド長だ。
そうだな、半分くらい消えれば逃げていくだろう。」
「半分ね。」
「おい、ヤマト。あまりやりすぎるなよ。
全滅したら元も子も無いからな。」
「オライオン、デコイの様子はどうだ?」
「焚火にあたらせていますよ。鎧を着せているのと夜間なので判らないでしょう。」
「ダンケルク!」
「準備はいつでも!」
「よし、奴らが襲ってきたらテントを斬り払い打って出る。」
「「「「了解!」」」」
「奴ら待ち構えていやがった!」
「構う事はねぇ!やっちまえ!こっちは人数が多いんだ!!」
我先に襲い掛かる盗賊たち。
その盗賊たちの前にヤマトと言われた男が進み出た。
両手には片刃の曲刀がそれぞれ握られていた。
「ギルド、“フェールズ”所属、ヤマト。参る!」
二刀が弧を描くたびに盗賊の断末魔が聞こえ、血が宙に舞う。
「相変わらず、おっかねえ剣だな。」
そう呟いた男、ダンケルクは弓で盗賊たちを射抜いてゆく。
夜間で相手を視認しづらいのに正確に頭を射抜いているのである。
ヴァンガードの両手剣が唸る度に幸運な盗賊は瞬時にその一生を終える。
不運な盗賊は体の一部を失ったまま苦しみながら死んでゆく。
オライオンが戦棍を持ち盗賊たちの頭蓋や体を砕く。
ギルド長ドレッドも負けてはいない。
五人の盗賊に同時に切りかかられ全くの無傷。
片手で持った凍刃双槍が振るわれる度に周りの盗賊が
一人、また一人と凍り付いてゆく。
「ひぃいい何だこいつらは!!」
「は、話が違う!」
「いやだっ!!俺はまだ死にたくねぇ!」
最初の十数人を倒したところで盗賊たちが逃亡を始めた。
「ダンケルク!」
ダンケルクは静かにうなずくと盗賊の一人、後ろで号令を描けていた男に
黒い矢を放った。
黒い矢は男にあたると黒いシミになり鎧の汚れに混ざり判らなくなった。
「矢の時間はどのくらい持つ?」
「半日ってところですかね。」
「よし、これで奴らのアジトが判るな。1時間後追撃に移るぞ。」
「「「「了解!」」」」
盗賊を追った彼らが見たのは切り立った岩山の上に作られた古代の城跡だった。
戦略的拠点としての意味が無くなったため、廃棄された城である。
入城する為の跳ね橋は上げられ一切の侵入を拒んでいる。
「奴らご丁寧に投石機まで持ち込んでいるな。」
ドレッドの言う通り、城の四隅にある見張り塔の上には投石機が据えられていた。
ダンケルクは得意の弓矢で投石機の操縦者を狙う。
数発撃った後、
「どうも盾を上にかぶせているみたいだ・・・」
「俺達じゃ。接近しない限り何もできないな。」
「うむ。」
「無理だな。」
ヤマトの言葉にオライオン、ヴァンガードは同意する。
「どうするギルド長?
攻城戦をするにも、攻城兵器も魔法使いもいないぞ。
王都から呼ぶにも時間はかかるし、
ミストには低レベルの魔法使いしかいなかったはずだ。」
と部下に尋ねられたギルド長のガラハドは
「魔法使いか・・・・そうだな。」
「たしか、リモーデには噂の魔導士殿がいたな。
彼に足労願おうか。」




