魔導士は懐かしい名前を聞く
リモーデの町に帰ると、工房の前で黒服の男が待っていた。
辺境伯の筆頭執事のガイストだ。
カイは馬車から一人下りるとガイストに一礼した。
「魔導士カイ殿。お待ちしておりました。
辺境伯様から
“魔導士カイ以下四名、後日参上するように”
との言伝を持ってまいりました。」
辺境伯からの呼び出しであるが、後日とあるので今すぐの用事では無いのだろう。
「以下四名?」
「はい。他にバハル様、ニナイ様、ルリエル様です。」
馬車の方を見るとルリエル達は頷いている。
「判りました。辺境伯には“明日の朝に伺います“とお伝えください。」
カイがそう返答すると、ガイストは一礼し帰っていった。
「カイさん。いったい何の用なのですかね?」
フィリアが心配そうに
「俺の他にルリエルやバハル、ニナイも含まれるのとなると?」
「あ、それなら、ダンジョンコアのオークション結果にゃ。」
ギルド長のヴァニアの答えにディンカが疑問をはさむ
「オークション?辺境伯がなぜ関係しているのですか?」
「それは、オークションの口添えを辺境伯に頼んだからにゃ。」
「王都のオークションにも幾つかあるにゃ。
あの大きさのコアを出すとなると、規模が大きく権威のあるものでないとダメにゃ。
だから辺境伯に口添えを頼んだにゃ。」
王都で最も規模が大きく権威のあるオークションは王族が取り仕切っている。
辺境伯ともなれば王族に渡りをつけることは可能だ。
それを見越して口添えを頼んだのだろう。
「でも、あしたか・・・あたしら服とか無いよ。」
バハルやニナイは着ていく服を心配している。
「別に問題ないじゃないか?
こっちは冒険者と判っているのだし、カイも魔道士の格好で問題はなかったと聞いているよ。」
とディンカが言うが、バハルやニナイは
「「そんな問題じゃない!」」
と怒ってしまった。
そんな様子を見てカイは
「ルリエルはどうする?」
「故郷の服、ある。それ着る。」
ルリエルは祭礼用の服を別に持っている様だ。
「なら安心だ。」
「・・・カイよ。」
「?」
「お前は本当に残念な子にゃ。ディンカを見習うにゃ。」
ヴァニアの言う通りディンカを見るとバハル、ニナイの両名を連れて商業施設の方へ向かって行った。
話しぶりからすると、両名の服を新調するようだ。
カイはそんな三人を見ながら“よく判らない”といった顔をした。
翌日、工房の前に辺境伯からの出迎えの馬車が到着した。
カイはいつもよりもこざっぱりとした服を着せられ(主にフィリアに)
ルリエルはエルフの礼服を着ていた。
バハルとニナイはこぎれいな服に真新しいアクセサリーを着けていた。
辺境伯の館ではいつもの部屋ではなく、貴賓室に通された。
貴賓室はいつもの部屋と違い、調度品も質の高い物か使われ、磨きぬかれた一級品だった。
その貴賓室で辺境伯はカイを出迎える。
「ようこそ、魔導士殿。お連れの方もどうぞ。」
辺境伯は丁寧に挨拶をすると、カイ達に椅子をすすめてくれる。
「この度来てもらったのは、他でもありません。
オークションの結果が出たのでお知らせしようと思った次第です。」
「判りました。それで結果はどうなったのでしょうか?」
「コア三つを合わせた落札額の合計は527万GPとなりました。」
「「「「!!!!!」」」」
「この落札額にオークションの出品料や現金の移送費が経費として掛かります。
また今回、リモーデに収める税収ですが、1割となります。」
「という事は手元に入るのは?」
「約435万GPとなります。」
四人で分けても100万GPは入ることになる。
「だが、これだけの現金、無事に運べるのか心配ですね。」
「いえ、カイ殿、問題ありません。
現金の護衛には元王国騎士団長がギルド長を務めるギルド、
この間新たに王直轄ギルドとなった“フェールズ”に頼んであります。」
カイの耳に久しぶりに聞いたギルドの名前が飛び込んできたのだった。




