魔導士は魔法陣を刻む
「うみゃー。帰りたくないにゃ。」
「ダメですよ、ギルド長。仕事があるのでしょう。」
「でもフィリア。新鮮でおいしい海の幸を食べられるのは今だけなんだにゃ。」
「カイさんにいくつか持って行ってもらうので我慢して下さい。」
「でもにゃ、でもにゃ・・・」
ヴァニアとフィリアはウェスリックを出発してから同じような会話を繰り返している。
ヴァニアは新鮮な海の幸がそんなに名残り惜しいのか、
何時までもウェスリックの方を見ている。
フィリアの方は行きとは違い帰りではすっかり元気になっている。
馬車酔いの前兆さえ見られない。
帰りの馬車のある部分に、カイは浮遊の呪文を刻んでいた。
浮遊する高さを少し押さえ、その分持続時間を延ばす。
刻印された呪文は精霊石で発動し、客室部分を浮遊させ、揺れを少なくしている。
この浮遊の呪文に即応性はない。
通常馬車は、車輪が上下に動くと客室部分も上下に動く。
浮遊呪文で客室を車輪に対して浮かせている。
車輪が上下に動いた場合、客室の高さを変えようとするが、次の瞬間には車輪が元の高さに戻るため、それ以上は動かない。
その為、揺れ幅が小さくなり頭の上下が小さくなるのだ。
「しかし、こうして浮かんでいれば酔わないにゃら、杖でも良かったんじゃ無いかにゃ?」
ヴァニアの言う通り浮遊の魔道具は存在する。
浮遊の魔法陣が刻まれた杖、浮遊の杖と言われるものがある。
カイがプライベートビーチで刻もうとしていた物がその浮遊の魔法陣を改良したものだ。
浮遊の杖は即応性が高すぎる為、そのままでは馬車に乗るのと変わらない。
未熟な浮遊呪文の様な効果を必要としていた。
浮遊呪文の即応性が低くなる場合は、大きく分けて
1)効率が悪い場合、
2)精神力の消費量が少ない場合、
3)呪文の妨害
の三つになる。
1)や3)ではわざわざ効率の悪い魔法陣や妨害するための魔法陣を刻まなければならない為、不採用。
カイはその内の一つ、2)の精神消費が少ない場合を再現した。
そしてこの場合の利点は他にもある。
精神消費が少ないという事は精霊石の消費も少なくできるのだ。
消費される精霊石の量を減らすのは実に単純。
精霊石からの魔力を伝えるルート、刻印を細くすることで、
魔法陣全体に流れる魔力を減らす。
刻んだ魔法陣を車軸の上に仕掛けることで、客室全体を中途半端に浮かせることに成功したのだ。
その結果、起伏の多い道でも揺れを少なく走ることが可能になったのだ。
これにより、リモーデへ帰る為の日数を五日(一週間)だったのを三日に縮めた。
(魔法陣の制作と組込みに一日ずつ使ったので同じ日数となったが)
こうして、一行は無事にリモーデへ帰りついたのであった。




