魔導士は蟹パーティを行う
焼きカルキノスに触ったカイが言った。
「しかし、退治と調理が同時に出来たのはいいが熱くて持てないなぁ。」
「ふむ?そうか?どれどれ?」
ガミラとグメルがまだ熱い甲羅に触る。
「なんじゃ、このぐらい。問題ない。グメル運ぶぞ。」
「おう、ガミラ!」
ドワーフ二人は甲羅の熱を物ともせずカルキノスを担ぎ上げた。
「残りは足を運ぶにゃ。」
「鞄に足を入れておくか。
おっと、ハサミは入らないな。入り口より大きすぎる。」
カイは切り落とされた八本の足を鞄に収納した。
鞄の中で蟹の汁がこぼれそうだが、中は時間が止まっているのでそんな心配はない。
足を出す時に注意すればいいのだ。
それを見たディンカが
「ハサミは手で運ぶしかないな。それとも村人を呼んで来るか?」
「うちらで運べば、問題ないだろ。」
「そうですね。でも姉さん、この大きさだと一つ運ぶのに三人必要ですよ。」
「それは大丈夫。両方に呪文をかける。」
と言ってカイは呪文を唱えた。
「浮遊」
呪文の発動と共に蟹のハサミがふわりと浮く。
「取り敢えずこれで引っ張れば少し楽だろう。」
「よし、ロープをかけて引っ張ってゆこう。」
と言うとディンカ達は手際よくロープをかけハサミを引っ張り出した。
「何をしておる。早く行くぞ!」「いくぞ」
ガミラとグメルにせかされ村に戻っていった。
村へ着くと村長のメイヤーが出迎えてくれる。
「いやはや。もう退治してしまうとは、流石は冒険者さん達だ。
これで新しい領主さまを出迎えることが出来る。」
するとディンカはバツの悪そうな顔をして
「あー、それなんだがな。領主はな・・・」
「はい?」
「そこにいる魔導士が新しい領主なんだ・・・」
「、・・・・」
メイヤーは絶句した。
「知らぬこととは言え、冒険者と間違え申し訳ありません。」
「あ、いや、冒険者と言うのは間違いじゃない。
ワザと言わなかったこちらが悪いのだ。」
「そう言っていただけると助かります。」
メイヤーは一安心と言った表情をした。
「ところで、あの魔物を持ち込まれましたがどうなさいますか?」
「え?たべるにゃ。」
カイの代わりにヴァニアが答える。
「え??魔物ですよ?食べられるのですか?」
「カルキノスは魔物じゃないよ。巨大蟹だよ。」
「そうなのですか?この辺りではあまり見たことの無い蟹なのでてっきり魔物かと・・・。」
「うん。魔物と間違える大きさだからね。
そう言う訳で、あれをみんなで食べようと思うのだけど場所がね・・・」
「それならこの家のリビングをお使いください。
ここなら領主さまやお供のかたも大丈夫だと思います。」
「いや、私達だけでなく、村の人にも食べてもらおうかと思うのだ。」
かくして、蟹パーティは村の広場で執り行われた。
カルキノスのボリュームある肉にみな舌鼓を打った。
そんな中フィリアが
「でも、カイさん。あのフワフワと浮く魔法はいいわよね。」
「へぇ、どうして?」
「だってあんなに揺れないのなら、馬車も浮かせて動かせればいいのに、と思って。」




