魔導士は魔物退治(調理)に参加する。
一行が案内されたのは村の中央にある大きな家だった。
「どうぞこちらへ。馬車は裏に回しておきますので、そのままで結構です。」
そう言うとメイヤーは家の中に案内した。
家は入って直ぐの所にリビングがあり、長テーブルが置かれていた。
「どうぞお掛け下さい。詳しい話をいたします。」
と着席をすすめた。
全員が着席したところでメイヤーが話を始める。
「冒険者の方々に来てもらったのは依頼書にある通り、
村の海岸に居ついてしまった魔物を退治してほしいのです。」
やはりと言うか案の定と言うべきか、魔物退治の依頼だった。
魔物退治の場合、村の自警団では対応できないと冒険者に頼ることになる。
メイヤーの正面に座ったヴァニアが
「で、その魔物と言うのは依頼書の通りで間違いないかにゃ?」
「はい。やつは近くの入り江に入り込み養殖場を荒らしているのです。」
「ふみゅ、それは一大事にゃ。すぐ排除するにゃ。」
「お願いします。あなた方だけが頼りなんです。」
懇願する村長に見送られ入り江に向かう。
「ギルド長。相手、何?」
ルリエルがギルド長に質問する。
「そういえば言ってなかったにゃ」
「魔物は全長が50mを越えるカニの化け物にゃ。」
人一人分以上はある甲羅に細長い十本の手足が伸びている。
そのカニの化け物は細長い手を器用に使いその辺りの魚を取っている。
魔獣は“カルキノス”と言われる巨大蟹だ。
「意外に手を振る速度が速いわね。」
「カルキノスは殻が固いから刃が通りにくいのが厄介だな。」
「スタンさんも来ていたらよかったのですけどね。」
武器での攻撃する場合、固い殻には鈍器が一番有効だ。
ディンカ達のパーティではスタンやニライの持つメイスがそれにあたる。
残念なことにスタンは嫁のアイリスと里帰りだ。
アイリスは実家で子供を産む予定だと聞いている。
「メイスはやめといた方が良いにゃ」
「?」
ヴァニアの言葉にニライは考え込む。他の者の顔にも疑問符が浮かんでいた。
「甲羅を割ると折角のカニ味噌がダメになるにゃ。」
ここで、はっとなる一同
「ギルド長、旨いのですか?」
「うまいにゃ。特にこの季節のカルキノスは絶品だにゃ。
カニ味噌は酒によく合うにゃ。」
「「酒に合う!!」」
途端に目を輝かせる、ガミラとグメル。
「しかしギルド長、あの大きな蟹をどうやって倒すのですが?
手足は長い為、その間合いは尋常じゃないですよ。」
カイはカルキノスとは戦ったことはない。
前衛に補助魔法を使いその素早くカルキノスの懐に潜り込めないかと考えていた。
が、ここは砂場なので間合いを抜けるのも時間が掛かる。
更にカルキノスは波打ち際、危険になれば海に逃げることも可能だ。
「大丈夫にゃ。あれは魔法で動けなくするにゃ。」
「けどその前に、ディンカ、引き寄せを頼むにゃ。」
「了解。奴を引き寄せればいいんですね」
ディンカはそう答えると、気合を発した。
その気合に反応してカルキノスはこちらに向かって走ってくる。
かなり早い。
「よし、上手くいったにゃ。これでも喰らうにゃ。」
と言うとヴァニアは杖を構え呪文を詠唱した。
「我が眷属の手よ。相手を切り裂け!」
「肉球カッター!!」
爪を立てた猫の手がカルキノスの関節目掛けて飛んで行く。
スパパパパパパパパパパッ
あっという間にカルキノスの手足は根元から落とされ胴体だけになる。
「後はこんがり焼くとおいしく仕上がるにゃ。」
「という事で、炎よ!踊れ!フレームダンス!」
詠唱と共にカルキノスを炎のリングが囲みその身を焼く。
数分後、炎の消えた後には適度に焼けたカルキノスの胴体があった。
焼き蟹特有の香りが辺り一面に漂う。
ギルド長にとってカルキノスは美味しい食糧でしかなかったのだ。




