辺境伯は魔導士に領地を与える。
「魔導士カイよ。魔力焜炉の開発、ご苦労である。
その労に報い、そなたを辺境伯付きの魔導士として迎えようと思うのだがどうか?
報酬は月2,000GPを考えている。」
「それはありがたく名誉なことだと思います。」
「では、引き受けてもらえるのだな?」
「いいえ、お断りいたします。」
カイは辺境伯の申し出をきっぱりと断った。
「・・・な、なんだってー!!」
辺境伯の驚愕の声が響く。
しばらくの沈黙の後、気を取り直した辺境伯がカイに尋ねた。
「理由を聞かせてくれないか?」
「現在、金銭的に困っているわけではありません。」
カイは魔力焜炉の販売で結構な額を稼いでいる。
更に、王都のオークションに出品されるダンジョンコアを考えると金銭での報酬は魅力がない。
「で、では魔力焜炉の製造の権利も保護しよう。
このままだと、他の錬金術師に同じものを作られるのではないか?」
「辺境伯。魔力焜炉を他の錬金術師が作ることに何か問題でも?」
カイにとって魔力焜炉は多くの人に使ってもらえれば良いと考えていた。
その為、独占販売は考えていなかったのだ。
「ふむ、では何が望みだ?」
カイはしばらく考えると
「あえて言うなら、」
「煩わしいことが起こらないのが一番ですね。」
(のんびりと過ごせる日々が一番だね。)
「な、なるほど。」
(ぬう、子飼いになるのは嫌と言うのか、だがこの魔導士以上の者が来るとは思えぬ。
回復薬を作るだけでいいと言うのはどうだろうか・・・いやそれでは心もとない・・・)
この二人の間に意思の疎通はない。
「では領地ではどうだ?爺、地図を。」
執事は急いで地図を持ってくるとテーブルの上に広げる。
それほど詳しくはないが、辺境伯の領地とその周辺の地図だ
「そうだな、この辺り。
道が整備されていないから一週間ほどかかるが海に面したいい所だぞ。」
辺境伯はそう言うとリモーデからそう遠くない海岸沿いの村を示した。
「海岸沿いの村ですか・・・」
「漁業以外と特徴の無い村だから領地経営は気にすることが無いぞ。
領地経営は代官が代わりにやってくれるし、義務もない。」
カイはしばらく考えると
「判りました。謹んで頂戴いたします。」
「そ、そうか。あと、回復薬だが・・・」
「それもこれまで通り週20本で良いですよね?」
「問題ない、問題ない。」
辺境伯は頭を激しく上下させた。
「では、辺境伯、この辺りでお暇させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ判った。下がって良いぞ。」
「では失礼します。」
カイは辺境伯に一礼すると退出した。
辺境伯はカイが退出したのを見計らって
「ふー。なんとかなったな、爺よ。」
「はい。領地を持たせたことで、他所へ行かれる心配は減ったでしょう。」
「う、他所へ移るまだ可能性はあるのか?」
「“煩わしい事”が無ければその心配は無いかと。」
「うむ。魔導士殿で問題になりそうな事は事前に対処する必要があるな。」
「はい、それがよろしいかと。」
辺境伯が事前対処を決めていた時、当の人物は
(海岸沿いの領地か、海はしばらく行っていないな。)
(以前行ったのは魔術大学の時か・・・。)
(よし!工房、いやギルドの連中を連れて海に行くか!!)
カイは明日からの予定を考えると胸を高鳴らせるのだった。




