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魔導士は辺境へ旅をする

 王都近郊の街道は王国道といわれ石で舗装された道である。

 近郊の都市まで延びる道には一定区間ごとに兵士詰所が置かれ、海道周辺の治安を維持していた。


 だが、舗装された道が途切れると事情は変わる。


 舗装されていない(王国道ではない)道には兵士詰所は存在しない。

 町や村を移動する商人いわゆる貿易商トレーダーを狙う盗賊、旅人を襲う魔獣が出没し被害がではじめる。


 そのため、辺境に向かう貿易商の多くは冒険者を雇う。


 カイはそんな貿易商の一人、アベル&ラフィ商会の護衛に雇われていた。

 御者台にアベルとカイ、荷台にラフィと商売用品が積み込まれている。そして、馬車を守る様に三人の冒険者が騎乗する馬が並走している。


 商会の主であるアベルはこのところずっと機嫌が良かった。


「このところ運がいい。天気は良いし、グレートハウンドやワイルドビーストと出くわさないぞ。」


「そうですね、アベルさん。奴らは何日かごとにやって来て積み荷を荒らすのですが、この旅ではまだそれがありませんね。」


 そう答えるのは商会お抱えの冒険者、ディンカである。

 彼は浅黒い肌の戦士でこげ茶色の髪の毛をドレッドにして後ろにまとめていた。腰にはシミターと言われる曲刀をぶら下げておりそれが彼の愛用の武器なのだろうと思われた。


 他にはディンカと同じ肌の色だが、サイドとバックを短く刈り込んだ赤髪の持つスタン、

(腰にはメイスぶら下げ、背中に小盾を背負っている。)


 色白で肩まである栗色の髪にトラベラーズハットを被ったフローム、馬上で取り回しの良い小弓をいつでも撃てるように構え、辺りを警戒していた。


 同じ様に使い込まれた灰緑色の皮鎧を着けているところを見ると三人で一つのチームであり、ディンカがリーダー格なのだろう。



 アベルが言う、グレートハウンドはスマートな中型の犬で十頭ほどの集団で馬車を襲う。動きが素早く撃退は難しいが、そう多くない食料を手に入れると去ってゆく。その為、被害をある程度予測できる魔獣だ。

 対してワイルドビーストはヒグマ並みの大きさがあり、食欲も旺盛である。その為、襲われると壊滅的な被害を受けるほどの狂暴な魔獣である。

 ただ、幸運なことに普段は森の奥にいるらしく街道では滅多に出会うことはない。


 彼らの言う魔獣が出現しないのには実は理由があった。

 カイの仕業である。


 馬車に接近する前にグレートハウンドや野ウサギ等の小動物を倒していたのだ。

 カイはダンジョンの下見を単独ソロで行っていた。その為、索敵能力を上げる必要があった。カイの呪文での索敵範囲は半径700m、効果時間も長く約3時間は索敵可能だった。


 それを使い魔の梟 サスケ、サイゾウ、セイカイ の3羽を通して使用する。梟の視力は人間の約八倍あり赤外線も見ることが可能。使い魔の3羽を自分中心に半径5kmの円を描く様に飛ばす。これにより3羽で半径10km以上の索敵を可能としているのだ。


 使い魔を通した呪文の発動は、低レベル呪文と限定されるが、グレートハウンドや野ウサギ等の動物に対して十分な殺傷能力を持っていた。


 野ウサギ等を倒すのは、グレートハウンドの餌であり、ワイルドビーストの誘導の為である。


 グレートハウンドは賢い。

 目の前に餌がある場合、危険をおかしてまで馬車を襲うことはない。ワイルドビーストは逆に賢くない故、餌の方向に誘導できる。

 そうやってカイは馬車の安全をこっそり確保しているのだ。


 呪文が使えない者からすると、驚異的な方法だ。

 が、本人にとって何時も使っていた方法なので苦労しているとは思っていない。“ダンジョンに比べて見通しが良いため楽だ“としか思っていない様である。


 そんな彼が表情を曇らせた。


(距離は10kmぐらいか。人数は全部で十人。)


(馬車側に冒険者が三人、雇い主の親子連れが二人か・・・不味いな。)


 彼の脳裏には使い魔を通しての光景が映し出されていた。

 馬車を囲む盗賊の集団やそれに抵抗する冒険者達と父と娘らしい親子連れである。少し離れた地面には黒いシミらしいものが見えた。


 三人の冒険者の内、前方にいる二人は槍を構えているが、手傷を負っているらしく動きが悪い。盗賊の数が多いため詰め寄られつつある。残る一人が弓での援護をしているが倒されるのも時間の問題かもしれない。

 弓で援護をしている冒険者。少し華奢な体格から判断すると女性だろう。その上、短く切りそろえられた髪の間から人間にしては長い耳が見え隠れしている。


(エルフの女冒険者か、彼女と娘以外は皆殺しだろうな。・・・やはり雇い主に聞いてみるか?)



「アベルさん。この先、10kmぐらいの所で貿易商らしい馬車が十人ほどの盗賊に襲われています。」

「え?盗賊?」

「!!10km先って・・・それって魔導士の技?」


 スタンが驚いて聞き返してくるがそのわき腹を仲間の冒険者がつついて窘める。冒険者にとって独自の技は秘密にしていることがあるし、それよりも大事なことがある為だ。


「うむ、盗賊か・・・同じ貿易商として捨て置けんな。」


 同じ街道を行く貿易商は競争相手ライバルである。と同時に、困った時は助け合う友人でもある。

 馬車を助ける為にはディンカ達の乗る馬を早駆けさせなければならない。最悪馬がつぶれるかもしれない。それでも助けが間に合うかはギリギリである。

 このままやり過ごせばこの馬車は無事だろう。しかしそれは貿易商として人としてどうなのか?明日は我が身でもある。


 アベルの中で様々な葛藤が渦巻く。数秒後、意を決したアベルはディンカに指示を出す。


「ディンカ。すまないが盗賊共を蹴散らしてくれ。最悪馬は潰しても構わん。」


「判りました。でもボーナスは弾んでくださいよ。」


 ディンカはそう答えるとニッカリと笑った。

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