片道切符
Sランクギルド“フェールズ”のギルド長ライセルは焦っていた。
ギルド内の人員を刷新し、自分の息子を次のギルド長にと考えていたが、当の息子がそれを拒否した。
彼からすれば当然である。
ギルド“フェールズ”はダンジョンで死人を出したため半年の探索資格停止を受けた。死人の中にはギルドで唯一残っていた魔術師が含まれていたのだ。
現在、ギルドには所属の魔術師は0人。
魔術師がいない様なギルドに未来があると考えるのは、現実を見ることのできない“愚か者”だけである。
ライセルの息子は愚か者では無かったようだ。
その上、来季の降格が決まっていた。しかも、一度に2ランクダウンのBランクギルドとなる。
もはやギルドとしては終わっていると言っても良いだろう。
だが当のライセルは
(まだ!まだこのままでは終わらん!!魔法使いがいなくなっただけだ。あんなものいくらでも補充できる!)
「そうだ!フェールズはSランクギルドなのだ!募集を出せばすぐに補充される!!」
ライセルの思惑に反してこのギルドに入る魔術師はいなかった。1週間たっても問い合わせさえない。
当然である。
死人を出すギルドに入る魔術師はいない。
日が経つにつれ、見切りをつけた者はギルドを去っていった。去ってゆく者の中にアウスゼンがいたことは言うまでもない。
そこで諦めればライセルの未来も変わっていただろう。
だが彼は極めて愚かであきらめの悪い男だった。
人員が足りなければ、クビにした奴らを引き戻せばいい。どうせギルドをクビになって仕事も無いだろう。“やはりお前の力が”とか言えば戻って来るに違いない。
そんな考えの元、ライセルは自分が追い出した冒険者に連絡をつける。ただ、その中でも若い方であったカイに連絡がつかないのが不満であった。
(やはりあいつは役立たずだ。肝心な時に使えない!)
自分勝手な評価だが、ライセルの中ではそれは正しい評価なのだ。
結局、ライセルの元に集められたのは年齢が60才を越える者だけだった。ライセルを含め総勢6名の老人集団と言ったところだ。
(年寄りしか集まらなかったのは仕方がない。だが、なんとか魔法使いを参加させたぞ!)
この老人集団の中でも最年長は79才の魔術師“フィリップ”。彼は大病を患って療養中だったのをライセルが無理やり連れて来たのだ。
ライセルはギルド復活の方法として、一発逆転を狙っていた。
それは未調査ダンジョンの攻略である。
王都近郊より少し離れた場所にはまだ未調査のダンジョンが幾つかある。未調査であるためダンジョンの危険度合いが不明。それゆえ死の危険は大きい。
死者を出した場合は探索資格停止になる為、そんな危険を大手のギルドは侵さないため手を出すことはない。未調査ダンジョンの調査は主にBランクやCランクの中小ギルドが行っていた。
ダンジョンで見つけることの出来る宝箱は三種類存在する。
ランダム出現の宝箱とモンスターのドロップ品の宝箱、固定の宝箱の三種類。ランダム出現の宝箱とモンスターのドロップ品の宝箱の中身は一般的なものが多く価値のある品、いわゆるレア品は少ない。入っていてもレア度合いは低い。
しかし、固定の宝箱には間違いなくレア品が入っており、極めて価値の高い物が入っていることが多い。
調査済みのダンジョンでは固定の宝箱を手に入れることは出来ない。だが未調査の場合は固定の宝箱は手付かずである。
ライセルはそこに目を付けたのだ。
未調査ダンジョンを調査している者にいくばくかの小銭を握らせ、自らチームを率いダンジョンを降りていった。
それは地獄への片道切符だと知らずに。




