辺境伯は回復薬について知る
朝、辺境伯は執務室で執事から報告を受けていた。
「辺境伯さま。件の魔導士が回復薬100本を確かに納入しました。」
「ほう?今日までかかったのか?魔導士といっても錬金術師とあまり変わらないのだな。」
辺境伯は王都の錬金術師に対し同じ依頼をしたことがあった。その時と比較して変わりがないと言っているのだ。
辺境では回復薬を手に入れる為には王都へ注文をする必要がある。辺境伯は王都からの輸送は通常一月はかかるのだ。
更に回復薬にはデリケートな上、劣化までの時間が短く一年以上もたない。だが、非常時に備え回復薬を備蓄する必要がある。しかもその量は空間収納付き鞄には収めきれないほどである。
その為に魔導士や腕の良い錬金術師を欲していた。
「ですが、納入された回復薬に対して・・・」
「何か問題でもあるのかね?」
「あ、はい、問題と言うか、何と言うか、とりあえずご覧になって下さい。」
執事が呼ぶと、扉の外で控えていた召使が木の盆の上に回復薬二本を乗せて入って来た。一方が真紅の回復薬でもう一方が赤金色に輝く回復薬である。
「色が違うのか。」
「はい。辺境伯さまから向かって右、真紅の方が錬金術師によるもので向かって左、赤金色の方が魔導士によるものです。」
「うむ?で効果は?」
「若干、真紅の方が良いように思えますが、誤差の範囲かと。」
「他には?」
「錬金術師の手紙には“回復薬は冷暗所で保存”と“効果は半年で劣化”ありました。」
「一般的な保存方法と保存期間だな。」
「ですが魔導士からは“暗所で保存”とだけで他には何も・・・」
「何も?」
辺境伯は少し考え執事に指示した。
「魔導士カイを登城させるように。」
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カイは謁見の間に呼び出されていた。その顔は緊張しており、辺境伯の前で首を垂れていた。
辺境伯は謁見の間にある一番豪華な椅子に座りカイの方を見ている。
「魔導士カイよ。そなたに聞きたいことがある。」
「はっ。何なりと。」
「うむ、納入された回復薬の事なのだが・・・」
「回復薬?薬に何か問題でもございましたか?」
「前に王都の回復薬には効果期限があったのだが、その方の回復薬に効果期限が記されておらぬ。どの様な理由か?」
辺境伯の言葉を聞きカイは安心した顔で面を上げた。
「それは私が作った回復薬に明確な期限が無いからです。」
「なんと!」
辺境伯は驚きのあまり椅子から立ち上がった。
カイは話を続ける。
「今の所、判っている期限は三年です。」
「すばらしい。流石は魔導士の秘術と言ったところか。」
「いえ、秘術と言うほどのことはありません。」
「秘術ではない?」
「ええ、ただ完成したとする物を更に攪拌した物なのです。この方法は錬金術師なら知っていますが、使わないでしょう。」
「?」
「錬金術師の回復薬の作成方法では効果が半減する為です。」
錬金術師が薬を調合する場合、原材料をそのまま大鍋に投入し攪拌する。カイの様に要素を抽出することは行わない。要素を抽出する方法は、理を求める魔導士であるからこそ出来たことなのだ。
回復薬の元となる物は何か。
それは地道な魔導士たちの研究の成果と言える。
「つまりは魔導士の秘術と言うのは“回復薬自体の作り方”と言う認識で良いのだな?」
「はい、その認識で間違いありません。」
辺境伯は少し考え
「相わかった。」
「魔導士カイよ。この度の働き見事である。褒賞はかねてからの約束通り工房を与えよう。その工房で存分に腕を振るってもらいたい。」
「はっ!」
「では、下がって良い。」
カイは辺境伯に一礼、扉の所でさらに一礼し退出した。
謁見の間には辺境伯と執事だけが残された。
「ふふふふふ、魔導士カイか。思わぬ拾い物だったな。劣化の遅い回復薬に、危険なダンジョンコアの破壊。報酬が工房で釣り合うかどうかと思っていたが、魔導士殿は報酬に満足されたようだ。」
「左様で、今後いかがなされますか?」
「そうだな・・・次は週に回復薬を20本納入していただこうか?」
「辺境伯も人が悪い。」
「報酬は市価の10倍での引き取りと言ったところか、魔導士殿ならやってもらえるだろう。そうやって引き留めている間に次の策を考えねばな。」
辺境伯は執事にそう言うと今後のカイに対する方針を思案するのだった。




