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フィリアの悩み

 カイは王都の工房では連日連夜籠りつづけていた。

 マルティナの言葉をヒントに新しい衝突防止装置を開発するつもりなのだ。

 工房では複雑な実験装置と観測装置が組みあがり、出来上がったばかりの試作品について詳しく調べていた。


「やはり、マルティナ殿下のおっしゃった通り、故意に障壁を崩壊させると大きな力を得ることが出来る。これを利用して走空車グエルの動きを減少することが出来れば……。」


 と、カイが工房で新たな衝突防止装置を製作していた頃、領主の館の執務室でフィリアがいつもの様に書類整理を行っていた。

 カイが王都ですごしている間、領内のことはフィリアを筆頭に執事や使用人たちで切り盛りしている。


 丁度仕事が一段落したのか領主の館の執務室で休憩していた。

 フィリアの周りにあった堆い書類の山もごく小さなものになっている。このあたりの書類の整理はギルドで培ったものと領主の館での経験だろう。

 カイではこうはいかない。よくて書類の山を少し低くする、最悪、山を一つ作ることになる。


 そんな種類整理がひと段落ついたのかフィリアはしばらくボーっとしていたが、大きくため息をついた。


「なんじゃ?フィリア。ため息をつくと幸せが逃げるというぞ?」


 フィリアが声の方に顔を向けると緑の髪をしたこの世のものとは思えない人知を超えた美女が立っていた。


「これはハウメア様。いつの間に……。」


 人知を超えた美女であるはずである。彼女は人の姿に見えても竜であり女神の一柱であるのだ。


「ふむ?気にするな。丁度お主がため息をついたときにこの部屋に転移しただけじゃ。」


 ハウメアは領主の館を訪れる時、玄関から入ってくることはまずない。ほとんどの場合、転移してくるのだ。

 時には執務室で昼食の時やカイとイチャイチャしていた時に転移してきたこともあったが特に気にした様子はない。

 どちらかと言うと突然転移してこちらの反応を楽しんでいるようでもあった。(流石に夜の営みの時にまで来ることはなかったが……)


「……執務室で一人ため息をつくのは何か思うところがあっての事であろう。何なら我に話してみよ。こう見えても我は女神の一柱が一人と言われておる。何か力になれるかもしれんぞ?」


「!」


「どうした?遠慮はいらぬぞ?」


「……」


 突然の申し出にフィリアは答えることが出来ずにいた。

 それもそのはずである。

 気さくな態度をとってはいるがハウメアははるか太古より生きる竜であり女神とも呼ばれている。

 その様な存在に自分の私事を話すのは二の足を踏むことなのだ。


「ふむ、どうせお主の悩みはカイがらみの事であろう。」


「……」


 フィリアの態度からハウメアの言葉は間違いのないことのように思える。


「……ふむ、ならば今回の談話はお主のため息の原因と言うことにしよう。これならば問題あるまい。なに案ずるな。遥か昔には翡翠竜と言われたこの我、これでも経験は豊富だぞ。」


 そう言ってハウメアはにっこりと笑う。どうやらフィリアが話すまで帰るつもりはないようであった。

 そんなハウメアを見たフィリアはあきらめたようにため息をついた。


 -------------------


「カイが三の姫であるマルティナ殿下の講義を行っている事は“三の姫の相手としてカイが相応しい”と王国が考えているという事です。今はその話が正式になくてもいずれその話はあると思います。」


「ふむ。ではフィリアはそれに反対であるのか?それを阻止したいのか?」


 フィリアは首を振り否定する。


「いいえ。その様な訳ではありません。元々カイは男爵家の出。今は魔導伯、辺境伯に匹敵するほどの地位です。商家出身とは言え平民である私が正妻になることはあり得ません。」


「マルティナ殿下が正妻になることは反対ではないと?」


「はい。貴族としては王家と繋がることの出来る事は十分以上の可否がある事であると思います。マルティナ殿下は武術に優れたお方と聞き及んでいます。その優れた武術はいざという時にはカイの盾となってくれることでしょう。」


「確かに、噂に聞くマルティナならばさもあろう。」


「ルリエルは類い稀なる狩人でありその探知能力で常日頃からカイに忍び寄る危険を探知することが出来ます。」


 フィリアの話を聞いてハウメアは小さく頷いた。


「確かにエルフである狩人ならば危険察知に長けていよう。じゃがそのエルフ、ルリエルはマルティナが正妻になることに反対はせんのか?」


 ハウメアは首をかしげながらフィリアに尋ねる。


「ルリエルは反対するいわれはないそうです。彼女と違い私やマルティナ殿下は人間であり短命です。彼女にとって遠くない未来に永遠の別れが待っています。長い寿命をもつ魔導士と最後まで共に歩めるのは同じく長い寿命を持つエルフだけであると。」


 フィリアの言葉にハウメアは納得したように頷く。


「なるほど。エルフらしい考え方ではなるの。」


「そうなのです。それに彼女ルリエルはエルフの中でも若い方。魔導士であるカイと十分に共に歩むことが出来ます。それに比べて……」


「比べて?」


「……私には何もないのです。私にはマルティナ殿下の様な武術もルリエルの様な探知能力も……。この間もカイが傷を負って苦しんでいる時に何もできませんでした。私がせいぜい出来るのは書類の整理ぐらいなのです。」


 そう言うとフィリアはため息をつきうなだれた。


(あれだけの書類を整理できる事自体も大変な能力なのだが……だがそれではフィリアは納得しない。何があるのであろうか……。)


 ハウメアは少し考えるとフィリアにある提案をした。


「そうじゃフィリア。おぬし我を崇めてみんか?」

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