王国の変革と新たな問題
オールウェイを朝の早い時間に出発したカイは昼過ぎに王都に到着した。
数年前まで半年以上の日数がかかっていた頃と比べると劇的な変化である。
だが俺に伴って様々な問題が出てきた。
カイが宮廷魔術師補佐として出席する会議に問題の一つが議題に上がっていた。
1)オールウェイからリモーデを通り王都リヴェヒトへ行くルート。
2)ウエストエンドからソルを通り王都へ行くルート。
3)イズガルドから王都へ行くルート。
4)サーバルから王都へ行くルート。
この四つのルートで走空車同士の接近による事故が急増する問題が起こっていた。
元々オールウェイは王国の最辺境と言われ、辺境のリモーデよりも更に西に進んだ場所にある。
少し前までリモーデの商人が来るもの一月に一度程度の寒々とした小さな漁村だった。元々は小さな漁村であった為、リモーデからの道でさえきちんと整備はされていなかった。
今までは遠すぎて新鮮な作物や魚介類を運ぶことは難しかった。
魔道具を使えば運ぶことはできるが、魔道具は極めて高いため運んだ量に見合うほどではなかった。
これは新鮮な作物や魚介類は王都の近郊のダンジョンで回収することが出来たのが大きい。
しかし、飛行船や走空車の登場によって漁村の状況が一変する。
飛行船には整備された道は必要ない。その上、馬車での移動よりも早い。
リモーデから一週間(五日)の道も飛行船なら僅か二時間で到着する。王都でさえ片道五時間しかかからない。
その上、改良に改良を重ねられた走空車の場合は王都へ行くのに四時間しかかからなのだ。
カイの工房がこの地にあった事も関係する。
その工房で飛行船や走空車作られた。
飛行船の多くは王宮もしくは貴族に販売された(大商人の中には買った者もいた。)
数多く作られた走空車は大小さまざまな商人が買い取っていった。
中には乗合馬車を経営している商人もいたという。
数多く、走空車が王国中の商人に広まった結果、リヒトファラス王国では一大流通革命が起こった。
その変化はオールウェイよりも王都に近い領地の方が顕著だった。
辺境の町々から王都へ向けて、新鮮な作物や魚介類を乗せ数多く飛ぶ。
王都では新鮮な作物や魚介類が所狭しと並ぶことになった。
それはダンジョンでの食品回収を主にしていたギルドがたちまち立ち行かなくなるほどだった。
話が長くなったが、商人たちに走空車が数多くいきわたったことで起こる問題、
交通事故が多く発生するようになった。
王都内でも馬車同士の接触事故は数多く発生する。当然、その事故に巻き込まれる者も少なくない人数で存在している。
走空車の場合、接触事故の大半は空中で起こる。と言っても走空車車体同士が直接接触するわけではない。
走空車には車体同士が一定距離に近づくと弾きあう様になっている。その他にも防御の呪文により多少の事では壊れない。
たが、空を飛ぶ走空車の台数が多くなってくると、弾かれるぐらいに接近した走空車が別の走空車に接近し再び弾かれ加速すると言った事が起こるようになった。
弾かれ加速した走空車が何事もなく体勢を立て直せればよいが、運悪く地上の建物に衝突することが起こるようになった。
中には巻き込まれて亡くなった人もいるという。
王城にある会議室では国王の他王宮に努める公爵達、宰相のルツや宮廷魔術師筆頭のディルマ、内務大臣のケルト、軍務大臣のグラハムなどそうそうたる顔触れがそろっている。
その錚々たる顔触れを見たカイはガチガチに緊張していた。
「今月に入ってすでに五件の事故が起こっている。幸い死者は出なかったようだが、王都の目抜き通りの店が全壊した。これは由々しき事態ではないか?」
報告書を見ながら話す内務大臣のケルトは渋い顔をした。どうやら弾かれた走空車が店に突っ込みその店を破壊した様だ。破壊された店が目抜き通りにあるというのもよくなかった。
王都の目抜き通りの店は普通の大きな店というわけではない。
人通りの多いその様な場所に店を構えることが出来るのは大商人と言われる商人である。そんな大商人の後ろには有力な貴族がついている事が多い。
大商人の店の売り上げは後ろについている貴族にも還元されているため、貴族からの突き上げが激しいことがうかがわれた。
「やはり、王都へ来る走空車を規制する必要がありますかな?なんなら事故を起こした者の走空車は没収も視野に入れる方がよいな。」
軍務大臣のグラハムは商人から走空車を取り上げることを提案する。
「グラハム殿。事故の多くはギルド所属の走空車によって起きていますぞ。事故を起こした者の走空車を取り上げるのならば、事故を起こしたギルドの走空車も当然取り上げるのでしょうな?」
内務大臣のケルトは商人から走空車を取り上げようとするグラハムを睨みつける。
「……ギルドの連中は王国の為に役立っている。彼らにとって走空車は移動する為の足だ。それを奪うことは出来ん。」
グラハムは口をへの字にしながら椅子に背を大きく預ける。ギルドの中には軍関係者の引退後の就職先になっているものもある。そんなギルドに対し不利益になる事は出来ないのだ。
「商人だけと言うのは不公平ではないか?走空車は商人の足でもあるのだぞ。」
「何も全部の商人の走空車を取り上げるのではない。事故を起こした中小の規模の商人からだけだ。」
「グラハム殿は王都の商業をどう考えているのだ!」
王都の商業は大商人だけで成り立っているものでは無い。中小の商人があって成り立つのだ。その中小の商人から足とも言える走空車を取り上げる事は王都の商業の停滞に他ならない。
「商業?フン!それを考えるのは内務大臣であるお前だろうケルト。」
「何だと!」
ケルトは今にもグラハムに掴みかかりそうな勢いだ。
その二人に宰相のルツが割って入る。
「まぁ、双方とも待ちたまえ。陛下の御前だ。それに走空車を取り上げありきではなく、他に方法が無いか考えるべきだろう。」
「「……」」
ルツは二人が共に黙ったのを見てカイの方へ顔を向けた。
「ところで、カイ殿は何か解決方法をご存じないか?」
カイも走空車の衝突問題は考えなかったわけではない。走空車同士が接触したことにより異常回転を起こした事は報告を受けていた。
その為、走空車同士が一定の距離に近づいたら弾かれるように設定していたのだ。
事故はそれが悪い方へ動いたという事なのだ。
「そ、そうですね、そうですね。今できるとすれば王都内での速度制限でしょうか?その場合、速度が出ないように走空車を改造する必要がありますが……。」
「速度制限?事故が起こった際、強制的に止めた方がよくないか?」
公爵の一人が反論する。
「その場合、後続車との衝突が考えられます。」
「ふむ、何か上手い方法はないものか……。」
結局、たいしたことは決まらず会議は終了した。
カイは会議が終わるとすぐ王宮にある自分の工房へ駆け込んだ。
ドカッと工房に置いている椅子に腰を下ろすとほっと溜息をつく。
会議の間ずっと緊張しっぱなしだったのでドッと疲れが出たのだろう。
(しかし、走空車同士の事故を防ぐ仕組みか……。)




