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魔導士の契約と竜の血

 グヴィバーはカイに“我との契約”と言った。


 彼が言う”契約”とはサーバル領を守るために行った契約に他ならない。

 それに対してカイが差し出した代償は”願いをかなえること”。しかもその”願い”は決められてはいないものだった。

 カイはキリリとした真剣な顔でグヴィバーを見る。


「それで、どのような願いでしょうか?」


「たいした事ではない。カイ・サーバルよ。我が母上をお主の領地に住まわせてほしいのだ。」


「へ?」


 カイは驚きのあまり間の抜けた顔をさらした。


”領内にドラゴンが住まう。”


 領地に強力なドラゴンがいる事はそれだけで問題が多いように思える。だが、実際はドラゴンによって領地が守られることの方が多い。

 ドラゴンの住居は広い場所を使うので耕作地は減る。しかし、ドラゴンがいるだけで狂暴な野生動物は寄り付かないし、ダンジョンが出現してもドラゴン達がダンジョンを攻略してしまう。

 また、ドラゴンが住む土地は住むドラゴンの性質に合わせてその属性が強化される。例えばアースドラゴンなら土の属性が強化され土地が富む。

 この様にドラゴンが住むことは減った物以上の利点があるのだ。


「それでドラゴンは何竜住む予定なのですか?」


 カイが尋ねたのは住居に必要な広さの土地を確保する為だった。もし数が多ければかなりの土地を用意しなければならないからだ。

 しかし、グヴィバーは軽く首を左右に振る。


「いや、ここに住むのは母上だけだ。他の竜は住まない。それに住居はそれほど広くなくても良い。」


「そうですか、それなら特に問題は無いですね。他には何かありますか?」


 カイはハウメアの方へ顔を向けた。


「そうじゃな。一月に一度ぐらい話し相手になってくれればよいかの……。」


「話し相手ですか?」


 カイは怪訝そうな顔をした。明らかにドラゴンは人よりも知識が豊富である。まして全てのドラゴンの母、始原竜となれば人程度の知識を欲するとは思えなかった。


「うむ。丁度、人から直接話が聞きたいと思ったことがあるのじゃ。それに、只でとは言わぬ。一月ごとにわらわの鱗数枚と血を一ビンでどうじゃ?」


 ドラゴンの鱗は強力な武具になるし、竜の血は錬金術において極めて強力な回復薬を作る時に使用される。

 そのアイテムが月に一度手に入るのである。


 ハウメアの言葉にカイは思わず身を乗り出してしまった。


「判りました!領主の館の者一同をお伺いさせていただきます!」


 カイはガバッと大きく頭を下げた。


―――――――――――――――――――――


 一度決まれば話は早い。

 ハウメアの住居はカイの屋敷の隣に作られた。ハウメアの屋敷とカイの屋敷は渡り歩廊で行き来できるようになっている。

 カイの屋敷が木材をふんだんに使った物に対してハウメアの屋敷は石材の身で造られた塔の基部の様な形をしていた。


「奇妙な形……どう見ても塔の基礎部分の様に見えるのだが?」


「当然だろう。“基礎部分の様に”ではなく“基礎部分”なのだから」


「ああそうか、様じゃなくてその物……っておい!」


「何を言っておる。ドラゴンが塔を作るのは当たり前ではないか。お主、グヴィバーの塔を知っているのではないのか?」


「グヴィバーの塔?」


 カイは首を傾げた。グヴィバーはシラアエガスの山に住んでいるが塔は見たことは無い。山頂にもその様な物は無い。

 あるのは塔よりも高い山があるだけなのだ。


「ん?……」


 カイは何か思いついたのか言葉が止まる。


「まさか塔と言うのは……シラアエガスその物か。」


「うむ、そのとおりじゃ。あの山自体がグヴィバーの塔なのじゃ。」


「そうですか山なら……って山?!」


「ん?まぁこの屋敷が建つ丘が多少高くなるだけじゃ。それにわらわが作るのは塔じゃが上に伸びる物じゃないぞ。地下深くに延びるのが我が塔じゃ。」


「さ、参考までにお聞きしますが、多少高くなると言うのはどの位?」


「うむ。ほんの少し、1000mほどじゃ。」


 ハウメアはそう言うとニッコリ笑った。


―――――――――――――――――――――


 結局、カイの屋敷が建つ丘が標高2000mの山になってしまった。

(やはりドラゴンの言う“ほんの少し”あてにならない。)


 多少、町への買出しが不便になった事と標高が上がったことで気温が下がって寒いぐらいであった。特に気温が下がったことは錬金術には有利に働いた。

 錬金術において温度を上げるより温度を下げる方が難しい。

 その点、標高2000mなったことで気温が10度ほど低くなり冷却が楽になったのだ。


「“災い転じて福となす”と言ったところか。特に今回の錬金術には冷却が重要だからね。」


 カイはいつもよりも慎重に調合を始めた。今回調合を行うのは再生薬である。

 再生薬は欠損部分を再生する強力な薬だが極めて大きな欠点がある。

 使用者の体力を著しく消費するのだ。時には生命に影響するほどである。当然、体力や生命力のある若い者にしか使えず老人に使う事は出来ない。


 だが今回、カイはある物を追加で入れる事により体力消費を軽減させる予定だ。


 それは“竜の血”


 運良く?手に入った“竜の血”を調合に加える事で老人でも使える再生薬を作るつもりなのだ。


カイ 「ところで……グヴィバーさんはプラチナブロンドの女性だったと記憶していたのですが??」


グヴィバー 「ああ、女の二人旅は危険だと言うでないか。だから私が男になっているのだよ。道中、どんな災難に合うかわからんしな。」


カイ (災難の方が逃げそうなんだが……)

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