帝国紀行 その4
冒険者ギルド
リヒトファラス王国とは違い、皇帝直轄の組織である。
その役目は帝国内の冒険者の統括であるが、
出来て日が浅いのか噂通り斥候が冒険者の身分を手に入れるのに苦労はなかった。
王国のギルドとは大違いである。
ギルド内で募集されている依頼書の数も三枚と少ない。
依頼書が張り出されている掲示板の前で思案していると
ギルドの受付から男が話しかけてきた。
「ここは帝都じゃないからね。
依頼の数はいつもそんなものだよ。」
「帝都では多いのですか?」
「少なくともそこにある数の2、3倍はあるよ。
少し前に帝都に行ったことがあるから間違いないよ。」
帝都では少なくとも九枚はあると言う事だが、王国では地方のギルドの枚数である。
王都では各ギルドごと更に十倍以上、依頼書がある。
帝都では他ギルドも同じ状況なのかと考える。
ここで斥候は気が付いた。
”帝国にギルドは一つしかない。”
できて間がない組織なのであろう。
依頼書が少ない上、構成人数もかなり少なそうだ。
だからギルドの登録審査が緩い物だったのだ。
(王国のギルドも当初は一つだったと聞く。
ギルドが増えていったのはダンジョンでの収穫にギルド一つでは追いつけなくなったからだ。
帝国のギルドも今後増えていくのだろうか?)
今は帝国のギルドの行く末は関係がない。
より詳しい情報収集の為に帝都へ行く必要がある。
それには商隊護衛が適切だろう。
と、言っても一つしか帝都行きはない。
後は近隣での薬草取りぐらいである。
斥候が雇われた隊商は切羽詰まっている様子だった。
街道は危険だが正規の傭兵を雇う費用が無い。
だから、価格の安い冒険者を雇い費用を抑える。
でなければ身分証明が完全でない冒険者など雇わないだろう。
だが、その冒険者が盗賊にならないとは限らないのではないか?
斥候のそんな疑問に気づいたのかに雇い主は笑って答える。
「私の扱うのは”塩”だからね。
帝国に許可された商人しか扱えないし扱った場合、没収の上極刑だ。
この辺りなら、塩は簡単に手に入るから価値は低い。
だから道中は魔獣退治が主な仕事になる。」
なるほど、塩は盗賊にとってうま味のない必要物資なのか。
塩の価格が高くなる帝都の近くでは治安が良い。
必然的に魔獣対策が主となるのか。
「出発は明後日の朝だ。
それまで、宿に泊まって待っているか、ここの納屋なら使ってよいぞ。」
斥候は宿ではなく納屋に泊まることにした。
別に宿代が無いわけではない。
人目に見られるとあまり良くない事があるからだ。
納屋には同じように雇われた何人かの冒険者らしいものがいた。
冒険者たちが寝静まった真夜中
斥候は催した様なふりをして納屋から出る。
納屋の影で周囲に人がいないことを確認すると懐から鳥型の紙片を取り出した。
その紙片に数枚の紙を小さく折りたたんだものを取付け空に放り投げる。
驚いたことに、その鳥型の紙片は羽ばたきながらいずこかへ消えていった。
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リュファスは飛行艦の自分の部屋で斥候からの報告書を手にしていた。
「報告書を見たか、メルケル。」
「はい。皇帝と皇太子は対立していると、
この国にもギルドが出来つつあるとのことですね。」
「ふむ、皇帝はダンジョンを生産拠点として活用することを考えている。
その為のギルドだな。
対して、皇太子はダンジョンの被害を抑えることに重点を置いている。
この皇太子に走空車を渡すとどうなるかな?」
走空車を動かすためにはダンジョンコアから作られる精霊石が必要である。
しかもその精霊石は無限に使える訳ではない。
何時かは消耗する消耗品である。
走空車を常時使う為には一定量のダンジョンコアを確保する必要がある。
「間違いなく、皇帝と対立することになりますな。」
「私が渡す物によって帝国に亀裂が入り、帝国の貴族連中が右往左往する。
実に滑稽なショウだとは思わないか?」
「はい、それこそが、“選者”であるリュファス様だからこそ味わえる愉悦なのです。」
メルケルはそう答えると暗く黒く笑うのだった。
ここでひとまず終了です。
近いうちに再開の予定です。




